『CIAスパイ養成官-キヨ・ヤマダの対日工作』(山田敏弘、新潮社、2019)を読んだ。米国でキャリアを全面開花させた、知られざる日本女性のライフストーリーであり、情報活動をつうじてみた日米関係の「戦後史」でもある。
セキュリティ問題を主たるテーマに取材活動を続けている国際ジャーナリストによる本だ。この人が発掘しなければ、キヨ・ヤマダという米国籍の日本人の存在そのものが知られることはなかったであろう。
なぜなら、彼女はCIAの職員だったからだ。CIAにおける勤務実態については、現役中は当然のこと、リタイア後も基本的にディスクローズされることはない。現在進行形の活動に多大な支障を来すからだ。それはCIAにおけるポジションがいかなるものであるかにかかわりない。
キヨ・ヤマダ・スティーブンスン(=山田清:1922~1999)は、46歳から77歳までの32年間にわたって、日本語教官としてCIAに勤務しただけでなく、対日情報活動にも携わっていたのである。教官時代には、何度か極秘に来日もしているらしい。
「戦前」の日本に生まれ、日本社会に違和感を感じていた彼女は、日本から脱出したいと願い続けてきた。日本女子大卒の彼女は、湘南白百合高校で英語教師をしながら「フルブライト奨学金」による米国留学のチャンスをつかみ、語学教育法では有名なミシガン大学で修士号を取得する。
米国空軍軍人と結婚したことで米国籍を取得することになったが、広大な米国だけでなく駐留軍のあるドイツにも及ぶ、国内外で転勤の多いのが軍人であり、その結果、じっくり腰を据えて仕事をすることは難しかった。 自分が専門とする分野でキャリアを構築することが長年にわたってできなかったのだ。
そんな彼女が46歳でつかんだのが、専門を活かすことの出来るCIAの日本語教官というポジションだった。遅咲きのキャリア開始であるが、以後の32年間の勤務のなかで「ガラスの天井を破った」のである。
この本は、情報公開がけっしてされることのない、そんな日本女性の知られざるライフストーリーを、細い糸をたぐり寄せながら取材し、再構成したものだ。
CIAという情報機関について、海外の情報活動において不可欠な実用語学について、個人の生き方とキャリアについてなど、いろんな読み方が可能であろう。面白い本だった。
目 次プロローグ 墓碑銘がない日本人CIA局員第1章 「私はCIAで、ガラスの天井を突き破ったのよ」第2章 語学インストラクターと特殊工作第3章 生い立ちとコンプレックス第4章 日本脱出第5章 CIA入局第6章 インストラクター・キヨ第7章 最後の生徒
エピローグ 奇妙な「偲ぶ会」
著者プロフィール山田敏弘(やまだ・としひろ)国際ジャーナリスト、米マサチューセッツ工科大学(MIT)元フェロー。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などに勤務後、MITを経てフリー。数多くの雑誌・ウェブメディアなどで執筆し、テレビ・ラジオでも活躍中。『ゼロデイ-米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋、2017)など。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものに加筆)
<関連サイト>
戦後日本にCIAスパイを送り込んだ、日本人女性キヨ・ヤマダの数奇な運命(山田敏弘 Newsweek日本版 2019年9月28日)
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