2021年3月6日土曜日

書評『戦後民主主義-現代日本を創った思想と文化』(山本明宏、中公新書、2020)-「戦後民主主義」を軸にみた「戦後史」としてよくできた本だ

 
新刊の『戦後民主主義-現代日本を創った思想と文化』(山本明宏、中公新書、2020)を読了。これはよくできた「戦後史」の本となっているのでお薦めだ。  

「戦後民主主義」が「死語」となって久しい。それを擁護する人たちにとっては死守すべき金科玉条であったが、諸悪の根源とみなしてきた人たちにとっては嫌悪すべきものでしかなかったのが、「戦後民主主義」という6文字熟語だ。 

1984年生まれの研究者である著者は、「戦後民主主義」を要素分解すると、つぎの3つになるという。「平和主義」「直接民主主義」「平等主義」である。それぞれが「理想」である。「理想主義」の産物である。 

大東亜戦争における敗戦の結果、アメリカ占領軍によって「解放」された日本で花開いたのが「戦後民主主義」とよばれるものであった。 

だが、ことば自体は1960年代に生まれたものだという。ただし、敗戦後の数年間を除いては、現在から振り返ると意外なことに、つねに否定の対象となってきた。現在ではすでに忘却の彼方にあるといっても差し支えない。すでに日本近現代史上の専門用語なのであろう。 

そんな「戦後民主主義」をめぐる思想と文化を、そのときどきの政治情勢(それはもちろん経済情勢と大いにかかわりのあるものだ)を踏まえて75年の歴史として記述したのが、この本である。 

よくできた「戦後史」になっているのは、「戦後史」の75年というスパンを俯瞰的に見ながら、同時に各時代のディテールが読ませるものになっているからだ。 

細々とした固有名詞がうっとうしいと思う人もいるだろう。だが、論説だけでなく小説や映像作品などにも具体的に言及しながら、それぞれがどう「戦後民主主義」を反映しているか(賛成にせよ反対にせよ)が興味深い。自分がよく知っている時代と作品なら、なおさらだろう。 

それにしても、1984年生まれにしては、よく時代ごとの特徴をつかまえているなあと感心する。著者の専門が、日本近現代史を中心としながらも、メディア文化史と歴史社会学にもまたがっているからだろう。研究対象とはいえ、著者自身が生まれる前の作品までよく見ている。

著者の立ち位置は、「戦後民主主義」にも継承すべきものはあるというものだ。日本における「民主主義」が、けっしてアメリカ占領軍によって上から与えられたものではない、という基本的な考えさえはずさなければ、その見解には賛成である。

アメリカ占領軍による「日本人洗脳工作」は否定しょうのない歴史的事実であり、民主化の流れが「五箇条の御誓文」に端を発した「自由民権運動」にあることは言うまでもない。

読者にとって、自分が生きてきた時代の振り返りになるだけでなく、世代を越えた共通事項を確認することで、世代間コミュニケーションを図るための材料ともなりうる内容の本である。


    

目 次
はじめに
第1章 敗戦・占領下の創造-戦前への反発と戦争体験
第2章 浸透する「平和と民主主義」 1952~60年 
第3章 守るべきか、壊すべきか 1960~73年 
第4章 基盤崩壊の予兆 1973~92年
第5章 限界から忘却へ 1992~2020年
終章 戦後民主主義は潰えたか 
あとがき
主要参考文献
戦後民主主義 関連年表


著者プロフィール
山本昭宏(やまもと・あきひろ)
1984年奈良県生まれ。2007年京都大学部文学部卒。2012年京都大学大学院文学研究科現代文化学専攻二十世紀学専修博士後期課程修了。博士(文学)。日本学術振興会特別研究員などを経て、神戸市外国語大学外国語学部准教授。日本近現代史、メディア文化史、 歴史社会学。著書に『核エネルギー言説の戦後史 1945~1960』(人文書院,2012年)、『核と日本人』(中公新書、2015)、『教養としての戦後<平和論>』(イーストプレス、 2016)、『大江健三郎とその時代』(人文書院,2019年)。編著に『近頃なぜか岡本喜八』(みずき書林、 2020)がある。(奥付より)


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