2022年1月29日土曜日

映画「ハウス・オブ・グッチ」の原作『ザ・ハウス・オブ・グッチ』(サラ・ゲイ・フォーディン、実川元子訳、講談社、2004)を読んでみた

 
先日(2022年1月17日)、日本で公開されて視聴してきた映画『ハウス・オブ・グッチ』の原作を読了。さすがに一気読みというわけにはいかず、1週間かけて読み終えた。 

原作のタイトルは、『ザ・ハウス・オブ・グッチ』(サラ・ゲイ・フォーディン、実川元子訳、講談社、2004)。購入したのは、1990年代に業務としてブランドマネジメントにかかわっていた経験をもっているからだが、読まないまま年月が過ぎ去っていた。せっかくの機会なので映画を見たあとに読んでみるとにした。  

著者は米国人ジャーナリストで、グッチをはじめとするファッションブランドビジネスと経済関連の記事を書いている人だという。なるほど、単行本で400ページを超えるノンフィクションだが、ビジネス関係者にも読ませるだけの内容と面白さがある。原著のタイトルは The House of Gucci: A Sensational Story of Murder, Madness, Glamour, and Greed である。

ファミリービジネスによるブランドビジネスが、金融自由化の波のなか、グローバルビジネス化するなかで資本市場との関係が強くなり、資本の論理で再編されポートフォリオ化されていったのは、1990年代から2000年代にかけてのことだ。

その代表的な存在がフランスの高級ブランドグループ LVMH(ルイ・ヴィトン・モエ・ヘネシー)であり、グッチもまたその流れのなかで LVMH と熾烈な競争を行うことになる。 

だが、これは原著出版の2000年に至るまでの話で、グッチ一族がグッチの所有と経営から離れて以降のことだ。あらたな経営者となったドメニコ・デ・ソーレと天才デザイナーのトム・フォードによるグッチ・ブランドの劇的な再生後の話である。2人とも映画の終わりのほうに登場する。 

  
米国で教育を受けたイタリア人弁護士の経営者と、米国人デザイナーによる、たぐいまれな経営チームが、古都フィレンツェに発するイタリアのファミリービジネスからの脱却に功を奏したわけだ。だから、単行本の帯はトム・フォードに言及しているのであろう。ちなみにこの2人は、2004年に退任している。

この事実は、ファミリー最後の経営者となったマウリツィオが、ビジョン構築能力と人を惹きつけてその気にさせるすぐれた能力をもちながらも、数字にもとづいた経営感覚を欠いており、そのための右腕となるべき「ナンバー2」を育てられなかった器量の狭さを裏書きしている。著者の分析は大いに納得させられるものがある。


この本は、そこに至るまでのフィレンツェにおけるグッチ創設から、ファミリービジネスとしての発展、そして経営主導権を握るためのファミリー内部の激しい抗争、そして創業者の孫で三代目のマウリツィオ・グッチが射殺されるまでが、全体の2/3を占めている。映画化されたのは、この部分である。 

この原作を読むと、映画版はレディ・ガガ演じるマウリツィオの妻で野心家のパトリツィアを軸にしたストーリとしてシナリオが作成され、事実関係が単純化されているだけでなく、かなり改変されていることがわかる。

原作にあって興味深いのは、グッチと日本との関係が消費者としてだけでなく、資金難に陥っていたマウリツィオに資金提供したのが、日本に亡命して実業家となったイタリア人極右活動家であったことだ。

なるほど、映画の最初に Inspired by the true story. と明記されているわけだ。日本語でいえば「実話に着想を得た」ということになろう。つまり、事実関係を押さえた原作のノンフィクションと映画は別物と考えたほうがいいということになる。 

映画を見てグッチ家のファミリービジネス破綻の道筋に関心をもった人は、原作も読んでその詳しい背景や事実を追ってみるのも意味あることだろう。映画も原作も、それぞれ興味深く面白い作品であった。

なお、品切れになっていた原作本は、今回の映画公開にあたって上下2冊でハヤカワ文庫から文庫化された。 




目 次
1. それは死から始まった
2. グッチ帝国
3. グッチ、アメリカに進出する
4. 若きグッチたちの反乱
5. 激化する家族のライバル争い
6. パオロの反撃
7. 勝者と敗者
8. マウリツィオ指揮権を握る
9. パートナー交替
10. アメリカ人たち
11. 裁かれる日
12. 二つの別れ
13. 借金の山
14. 贅沢な暮らし
15. 天国と地獄
16. グッチ再生
17. 逮捕
18. 裁判
19. 乗っ取り
20. エピローグ
訳者あとがき

著者プロフィール
フォーデン,サラ・ゲイ(Forden, Sara Gay)
ファッション・ジャーナリスト。『ウィメンズ・ウェア・デイリー』の特派記者を経て、イタリアの雑誌『ルナ』の編集長をつとめる。ミラノ在住(2004年の単行本出版当時の情報) 
Sara Gay Forden covered the Italian fashion industry from Milan for more than 15 years, chronicling the explosion of labels including Gucci, Armani, Versace, Prada and Ferragamo from family ateliers into mega brands. She is now based in Washington, D.C. with Bloomberg News, leading a team that covers lobbying and the challenges faced by big technology companies such as Amazon, Facebook and Google.(2021年版ペーパーバックの情報から) 
近年はワシントンDCに拠点を移して、ブルームバーグ・ニュースで GAFA 関連ニュースを追うチームを率いている、ようだ。



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