2022年5月14日土曜日

書評『ベリングキャット ー デジタルハンター、国家の嘘を暴く』(エリオット・ヒギンズ、安原和見訳、筑摩書房、2022)-「オープンソース・インテリジェンス」によって調査報道のあり方はすでに大きく変化している

 

ネット上に投稿されて散らばって存在している動画や画像から「ジオ・ロケーション」という手法で「特定」し、その他のもろもろの断片的な公開情報を探しだしきてつなぎあわせ「検証」し、真相をあぶり出す手法。それが、「オンライン・オープンソース調査」である。 

しかも、その仮説の検証を「集合知」によって行うのは、ネット時代だからこそ生まれたあたらしい手法だといえよう。2010年から始まったこの手法は、英国で生まれてまだ10年程度の歴史しかないのだ。 

そんな「ベリングキャット」の創始者自身が、その始まりから現在までを明かした内容のノンフィクションだけに、じつに面白い。 

ベリングキャット(bellingcat)とは、「誰がネコに鈴をつけるのか」(to bell the cat)というイソップの寓話から来た命名だが、1979年生まれの創始者本人は、この寓話を知らなかったらしい。教えられて初めて知ったのだとか。

 2019年に放送されたNHKのBSスペシャル「ベリングキャット-市民が切り開く調査報道」を視聴してその存在を知って以来、関心を抱いてきたが、中東とロシアがらみのウソがつぎつぎと暴かれていったのは、かれらのおかげである。 

ウクライナで起きた「マレーシア航空機撃墜事件」(2014年)や、ロシアがバックにいたシリアのアサド政権による化学兵器の使用英国におけるロシアの情報機関FSBによる毒殺(と毒殺未遂)事件など、さまざまな事件の真相が明らかにされていくプロセスそのものが興味深い。 

そのすべてが情報公開されている点が、従来型の調査や捜査とは根本的に異なる点だ。「補遺」として1章が割かれた、FSBによるロシアの反体制派ナヴァルヌイ氏毒殺未遂事件は、下手な小説よりはるかに面白い。 

成果が示されれば、その効果に気がつく関係者がでてくるのも当然だろう。その変化はすでに調査報道のあり方のあり方にも、警察による捜査や、裁判での証拠提示のあり方にも影響をあたえ始めている。 


その意味でも、報道関係者や捜査関係者だけでなく、一般市民であるわれわれ自身が、かれらの活動に大いに注目する必要があるのだ。 原題の  We Are Bellingcat : An Intelligence Agency For The People の副題を直訳すれば「人びとのための情報機関」となる。 


PS bellingcat を belligerent と一瞬読み間違えそうになった。かれらの手法とは、まったく真逆なのだが(笑) 




目 次
introduction 
1 ラップトップ上の革命ーネット調査の可能性に気づく 
2 <ベリングキャット>の誕生ー探偵チームの形が整う 
3 事実のファイアウォールーデジタル・ディストピアへの反撃 
4 ネズミが猫をつかまえるースパイ事件が時代を画する事例に 
5 次なるステップー正義の未来とAIのパワー 
補遺 暗殺者と対決ー<ベリングキャット>、暗殺団に電話する 
謝辞
あとがきー日本の読者のみなさんへ
訳者あとがき
原註


著者プロフィール
エリオット・ヒギンズ(Eliot Higgins)
オープンソース調査集団として何度も表彰された“ベリングキャット”の創設者。カリフォルニア大学バークレー校の“ヒューマン・ライツ・センター”の研究員で、国際刑事裁判所の技術顧問委員会のメンバーでもある。2019年、『プロスペクト』誌によって世界最高の思想家50人のひとりに選ばれた。詳細なプロフィールは、wikipediaの記述(英語版)を参照。


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