『破壊戦ー新冷戦時代の秘密工作』(古川英治、角川新書、2020)を読んだ。「ウクライナ戦争」でその本質が誰の目にも明らかになったいまこそ、この本を読むべきだと強く思う。
内容は『「ダークパワー」で世界を脅かすロシア』というタイトルにすべきものだ。日経の記者としてモスクワ駐在を2回経験しているジャーナリストの著者は、ロシアを中心にして周辺諸国の取材を行っている。
この本のテーマは、ロシアによる秘密工作である。情報機関に大きく依存したプーチン体制の悪行の数々である。 「平気でウソをつく国」の実態である。
毒物による暗殺、難民を利用した外交工作、ロシアマネーによる政治家の買収、フェイクニュースによるデマ拡散、サイバー攻撃といった手段でダークパワーを行使するロシアの実態に迫った、徹底した、しかもきわどい取材とその考察の成果である。
2008年のジョージア侵攻、2014年のクリミア併合と、どんどんエスカレートしていくロシアの強行姿勢と、連動して激化していった秘密工作。2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の爆発で、中国はロシアを模範としたダークパワーを全開させる事態に至っている。
そして、いままさにその渦中にある「ウクライナ戦争」となっているわけだが、この本を読んでいると、長引く戦争と経済制裁によって疲弊していくと、ロシアが弱体化していくことになるが、ますますダークパワーに依存していくことになるのではないか、という懸念を抱くことになる。
その意味では、『破壊戦』というタイトルで大いに損をしていると思う。この本が新刊で出たとき、わたしはタイトルを見て「読む必要なし」とみなしてしまった。一般に「破壊」とは目に見える、形あるものをイメージするものである。見えないところで行われる「破壊」を「破壊」と認識するのは難しい。
本書の重要性に気がついたのは、つい最近のことだ。そして、遅ればながら読み終えたいま、もっと早く読んでおくべきだったと思っている。 その内容は、まさに『「ダークパワー」で世界を脅かすロシア』そのものだからだ。
新書本だが、じつに中身の濃い1冊である。著者による記事も含めて、断片的な情報はさまざまな媒体で読んでいるが、本書のように深い考察を踏まえたうえでまとめあげたものはそう多くない。読み応えのある本だった。
目 次はじめに第1章 工作員たちの「濡れ仕事」1. 3つの猛毒事件2. 15万人の工作員3. 北極圏での少し怖い体験4. 市民インテリジェンス第2章 ロシアのプレーブック1. 美女とカネとポピュリスト2. 「シュレーダリゼーション」3. マフィア国家の構図第3章 黒いカネの奔流1. ロンドンの赤の広場2. パナマに透けたからくり3. マネロン銀行の実態4. 投資家の闘い第4章 デマ拡散部隊の暗躍1.ネット工作のトロール工場2. プーチンの料理長3. トランプの勝利に貢献した北マケドニアの街4. 大物の正体5. USA Really?第5章 プロパガンダの論理1. ロシア人記者の告発2. RT編集長の怒り3. 「煙幕、煙幕、煙幕」第6章 サイバー攻撃の現場1. ウクライナが実験場2. 元KGB・元ハッカー3. カスペルスキーの曇ったガラス4. ダークパワーの本領発揮第7章 コロナ後の世界1. 中ロ発インフォでミック2. 台湾が恐れるシナリオ3. 「超限戦」の開花?おわりに
著者プロフィール古川英治(ふるかわ・えいじ)1967年、茨城県生まれ。日本経済新聞社編集局国際部次長兼編集委員。早稲田大学卒業、ボストン大学大学院修了。1993年、日経新聞入社。商品部、経済部などを経て、モスクワ特派員(2004~09年、2015~19年)。その間、イギリス政府のチーヴニング奨学生としてオックスフォード大学大学院ロシア・東欧研究科修了。世界の大統領から工作員、犯罪者まで幅広く取材。『破壊戦―新冷戦時代の秘密工作』は初の単著となる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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