2022年11月28日月曜日

書評『増補版 わが人生記ー 青春・政治・野球・大病』(渡邉恒雄、中公新書ラクレ、2021)ー 「人生100年時代」にはナベツネ氏の人生には読むべき価値がある

 


ナベツネこと渡邉恒雄氏は、96歳の現在なお健在。先日、政治学者たちによる聞き取りによる『渡邉恒雄回顧録』(中公文庫)を読んだので、それを補完する意味でこの本も読んでおくことにした次第。  

内容的には重なるものもあるが、『渡邉恒雄回顧録』ではあえて取り上げらっれなかった事項が取り上げられている。それは、野球と大病についてだ。 

野球については、球団オーナーとしての経営者の見識といったものを知ることをできる。スポーツ新聞に登場していた「ナベツネ」とは違うものがそこにある。 

若き日に哲学で鍛えた思考力、共産党員として培った組織運営能力、新聞記者として磨き上げた取材力と人間観察力のたまものというべきだろう。 

なんといっても、本書に再録されている「私のガン手術体験記」には注目せざるを得ない。72歳で前立腺がんが発見され、前立腺全摘手術を行った体験記であるから、中高年男性としては熟読してしまうのである。 

上皇陛下も前立腺全摘手術を行っているし、天皇陛下も前立腺の検査値に問題があるので再検査というニュースが流れていることもあり、「前立腺」には過剰に反応してしまうのかもしれない。 


■共産党時代があったからこそ

戦争のため暗かった時代の、暗かった青春時代につづく敗戦後の回想で、はじめて知ったのだが、古代ギリシア哲学のアリストテレスを専攻していた恩師の哲学者・出隆(いで・たかし)が共産党に入党したのは、渡邉恒雄氏が誘い入れたということをはじめて知った。そういうことだったのか、と。 

出隆の弟子で、岩波文庫からエピクロスを共訳している岩崎允胤(いわさき・ちかつぐ)教授のヘレニズム哲学の授業を大学学部時代に受講していたが、エピクロス解釈がどうしても唯物論の傾きすぎる印象があるのは、そんなことが背景にあったわけだな。 

また、小泉純一郎の「構造改革」についても、もともと「構造改革」という用語そのものは、イタリア共産党が打ち出したものだったことなど、渡邉恒雄氏でなければなかなか出てこないものだろう。名前と実態の関係とズレについての指摘も、哲学畑出身ならではのものといえようか。

「人生100年時代」とはいうが、その年齢まで生きる人は、じつはそう多くない。現在96歳の渡邉恒雄氏は、まだまだ語っていないことも多いのではないか。もちろん、取材源など語ることなくあの世にもっていくのだろうが、死後開封が厳守の記録などあるのだろうか?  


PS マスコミにでてくる写真は、いまにも噛みつきそうな憎々しげな人相のものばかりだが、若き日の写真はなかなかハンサムではないか! ふてぶれしさが漂ってくるが(笑)




目 次
はじめに
第1章 新聞記者修業
第2章 暗かった青春時代
 1. 共産党体験が残したもの
 2. 恩師出隆と『哲学以前』
 3. 葬送曲 チャイコフスキー《悲愴》
第3章 政治家と指導力
 1. 小泉首相に友情をもって直言する
 2. 指導力と政治宣伝の理論
第4章 プロ野球
 1. 2004年夏の騒動とは
 2. 私のプロ野球改革論ー聞き手・小林至
第5章 老夫婦の大病記
 1. 私のガン手術体験記
 2. 老いた病妻をいとしむ
追悼 中曽根康弘元首相ー私心なき勉強家 盟友との60余年 

著者プロフィール
渡邉恒雄(わたなべ・つねお)
1926年(大正15年)、東京生まれ。東京大学文学部哲学科卒。1950年、読売新聞社入社。ワシントン支局長、政治部長、論説委員長などを経て、読売新聞グループ本社代表取締役主筆。著書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
  

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