2022年12月28日水曜日

書評『全裸監督 村西とおる伝』(本橋信宏、新潮文庫、2021)ー その人生には圧倒される!



近頃これほど、どんどん先を読みたい、さらに先を読みたいとさせる気にさせる本はなかった。 

さすがに文庫本で850ページを超える分厚い本なので一気読みというわけにはいかないが、これだけ本が厚くなっても村西とおるという人物の人生が面白いのだ。 

Netflix によるドラマ化後に文庫化されたようだが、世界的に大ヒットしたドラマ版はまだ見ていない。

このドラマを見るためだけに Netflix 契約しようかなと思ったこともあるが、YouTune や amazon prime video に加えてとなることもあり、さすがに動画三昧の生活とはいかないので禁欲している。 だから、原作の活字版を先に読むことにしたわけだ。 


ドラマ版は視聴していないのでなんともいえないが、村西とおるの怒濤のような進撃がつづいていた1980年代から1990年代初頭にかけての「バブル時代」を同時代にナマで体験し、当然のことながら村西とおるのことは知っていただけに、あえて再現映像で見る必要はないという気もする。自分のアタマのなかにイメージができあがっているからだ。映像化できなかったシーンもあるはずだ。 

それにしても「前科7犯、借金50億、求刑懲役370年」というキャッチフレーズはとてつもなくすごい。まさにジェットコースター人生である。絶頂期とどん底のコントラストが半端ない。絶頂期の猛烈な仕事ぶりは、イーロン・マスクも真っ青だろう(笑) 

そのディテールはこの本を読むとよくわかるし、すぐそばにいて同伴して疾走していた著者だけに、臨場感をもって描かれる。饒舌なまでの「応酬話法」を武器に快進撃をつづけ、度重なる窮地を脱することのできた村西氏だが、この本(・・単行本は2016年)ではじめて明かされた真相も数々あって読ませるのである。 

絶頂期とどん底を味わった男の人生ほど、読ませるものはない。村西氏も不死鳥のように復活している。エロを含めた時事問題にかんしての twitter での発言は、まさに正論。思わず「いいね」してしまう。 

文庫版の解説を書いている松原隆一郎氏が書いているように、村西氏は本質的にモラリストなのだろう。人間性の真実を見つめる厳しくかつ愛のある視点、過剰に見えながらも節度のある態度。息子が名門私立校のお受験に成功しても、絶対に子どもをだしに金儲けしようとはしない。 

時代の先を読む感覚にすぐれ、「事業家」として突出した存在であったが、「経営者」としては失格だったと言わざるを得ないだろう。近くにいて意見できるような「ナンバー2」を欠いていたためである。どんぶり勘定が当たり前となって下り、無謀な投資が実行されてしまったからである。 

だが、AV を世界に誇る(?)「日本文化」として確立した功績はきわめて大というべきだろう。マンガやアニメだけが日本文化ではないのだ。 

こんな人物が同時代にいるということだけでも、日本という国が、日本人という存在がすごい。そう感じないわけにはいかないのだ。 



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