2023年1月12日木曜日

書評『米中対立の先に待つもの-グレートリセットに備えよ』(津上俊哉、日本経済新聞出版、2022)ー 中国はすでにピークを過ぎている


『米中対立の先に待つもの-グレートリセットに備えよ』(津上俊哉、日本経済新聞出版、2022)を読んだ(*昨年12月のこと)。昨年2月の新刊だが、もう少し早く読んでおけばよかったと思う。だが、議論の基本線は今後も変わらないだろう。読む価値はある。  

「米中対立」は経済だけでなく、すでに価値観をめぐるものなっており(・・さらにいってしまえば世界観対立というべきか)、とくに台湾をめぐってのコンフリクトは、いつ戦争になってもおかしくない状況だ。 

著者の基本スタンスは、「米中対立」を静態的にみてはならないというものだ。米中をめぐる外部環境が変化するだけではなく、米国も、そして中国も、ともに変化の相のもとにあるからだ。 

最大の主張は帯にもあるように、「中国の膨張主義は永続きしない」ということだ。「対米持久戦」体制に入っている習近平体制だが、時間が中国に味方するとは言いがたい。 

というのは、中国は内憂外患の状態にあるからだ。それは、国内治安費用が国防費を上回ることかわもわかる。 中国も国防費はGDPの2%以内だが、規模的には大きいことは言うまでもない。

経済格差、フローよりもとくにストックにかんする資産格差にかんしては開く一方であり、国内にたまった不満のマグマへの対応で手一杯の状態である。先日(昨年11月?)もコロナ対応にかんする不満が小爆発があったばかりだ。社会の不安定化は増大する一方である。 

中国共産党幹部とその関係者という、「特権階級」への富の集中ぶりはすさまじい。米国ほどではないが、その点にかんしては中国は日本の比ではない。現在の中国は、きわめていびつな状態になっている。 

就任以来、汚職を厳しく取り締まってきた習近平だが、自分もその一員である「特権階級」にメスを入れることはできない。中国共産党体制を否定することになりかねないからだ。習近平でさえ、というべきか、それとも習近平だから、というべきか。 

経済が成長過程にあれば、フローの所得がそれにともなって上昇しているので、さほど不公平は感じないものだ。だが、経済成長が鈍化していくと、ストックの格差問題に敏感になってくる。バブル崩壊後の低成長時代に生きる日本人なら、肌感覚で理解できることだろう。 

著者の主張で傾聴に値するのは、「中国振り子論」である。毛沢東以来の中国共産党の統治だが、左にぶれたら右への修正が働き、右に行き過ぎると左に戻そうとする力が働く。現在は左にぶれている状態だ。 

なにごとにつけ、ブレが大きすぎるのである。新型コロナ感染症(COVID-19)対策にかんしても、その通りであることは周知の通りであろう。ロックダウンを続けておきながら、突然解除する。経済運営もまたしかり。

1960年代生まれの中国人は「文革世代」である。その最たるものが習近平だ。振り子のぶれの大きな中国は、しかも世代間格差がきわめて大きい「文革世代」が統治者である限り、つまり3期目に入った習近平体制が続く限り、中国社会は変わらないであろう。 

だが、膨張がストップしたというピークアウト認識が指導層のあいだで共有されるようになったときが怖いのだ。これが最後のチャンスとして対外的なギャンブルに出る可能性があるからだ。尖閣問題と台湾問題である。それは、時間の問題かもしれない。 

著者は、30年ちかく中国を研究してきた中国通であるだけでなく、経済産業省出身のエコノミストらしく、基本的に経済データにもとづいて議論を展開している。すでに2013年には『中国台頭の終焉』(日本経済新聞出版)という本を出しており、その延長線上にある現在の著者の見解には基本的に賛成だ。  

中国という巨像は、まさに虚像である。ためにする議論ではなく、沈着冷静に見つめて、その動静を見極めていく必要がある。なによりも重要なことは、日本と日本人が激変する世界情勢のなかでサバイバルしていくことだからだ。 




目 次
まえがき 
第Ⅰ部 2020年という転換点 
 第1章 対米長期持久戦に向かう中国 
 第2章 急激な保守化・左傾化 ― 転換点で何が起きたのか 
第Ⅱ部 時間は中国に味方するのか 
 第3章 突出する「デジタル・チャイナ」― その光と影 
 第4章 「共同富裕」と貧富の格差 
 第5章 3期目・習近平政権を待ち受ける試練 
第Ⅲ部 「振り子」としての中国 
 第6章 文革世代では中国の新時代を拓けない 
 第7章 中国はまた変わる ―「中国=振り子」仮説 
第Ⅳ部 国際秩序のグレート・リセット ― 日本はどう生きていくべきか 
 第8章 米中対立にどう臨むか 
 第9章 「グレート・リセット」がやって来る? 
 第10章 日本はどう生きていくべきか


著者プロフィール
津上俊哉(つがみ・としや)
日本国際問題研究所客員研究員、現代中国研究家。1980年、東京大学法学部卒業、通商産業省入省。通商政策局公正貿易推進室長、在中国日本大使館経済部参事官、通商政策局北東アジア課長を歴任。2002年、経済産業研究所上席研究員。東亜キャピタル取締役社長を経て、2012年より津上工作室代表。2018年より現職。主な著書:『中国台頭』(日本経済新聞出版、2003年、サントリー学芸賞受賞)、『中国台頭の終焉』(日本経済新聞出版)など。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


<ブログ内関連記事>





(2022年12月23日発売の拙著です)

(2022年6月24日発売の拙著です)

(2021年11月19日発売の拙著です)


(2021年10月22日発売の拙著です)

 
 (2020年12月18日発売の拙著です)


(2020年5月28日発売の拙著です)


 
(2019年4月27日発売の拙著です)



(2017年5月18日発売の拙著です)

(2012年7月3日発売の拙著です)


 



ケン・マネジメントのウェブサイトは

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。

禁無断転載!







end