2023年4月7日金曜日

「花のいのちはみじかくて・・」はオリジナルとは違っていた・・『林芙美子詩集「花のいのちはみじかくて」』(おのみち林芙美子記念館、栄光ブックス、2013)

 
花のいのちは みじかくて 
苦しきことのみ 多かりき (林芙美子) 

昭和前期の流行作家で『放浪記』で有名な林芙美子(はやし・ふみこ 1903~1951)が、好んで色紙に書いていたのだという。ずいぶん昔に知って、よく脳裏に浮かんでくるフレーズだ。 

ところが、林芙美子は詩人でもあって、上記のフレーズは詩の一節なのだそうだ。 そのことは『林芙美子詩集「花のいのちはみじかくて」』(おのみち林芙美子記念館、栄光ブックス、2013)ではじめて知った。 

それよりもっと重要なことに、このフレーズは元の詩とはちょっと違うのだ。というよりも、ニュアンスもイメージもだいぶ異なるのである。 

元の詩はつぎのようになっている。後半をあげておこう。 

生きてゐる幸福は 
あなたも知ってゐる 
私もよく知ってゐる 
花のいのちはみじかくて 
苦しきことのみ多かれど 
風も吹くなり 
雲も光るなり

 「苦しきことのみ多かりき」ではなく、太字ゴチックで示したように、「苦しきことのみ多かれど」なのだ。ずいぶん違うではないか! 

厳しい現実をそのまま受け止めて、それでもなお、前に向かって歩いていこうという気持ちが元の詩にはある。 

文学史的には「じつと手を見る」の石川啄木は余韻があるが、啄木よりいいと思う。英語でいう Tomorrow is another day. を想起させるものがある。 

詩集の最後に収録された「すくなくとも、私は生きてゐるのだ」(昭和8年)という詩もいい。 

詩人としての林芙美子は、あまり知られていないように思うが、あらためて振り返ってみたい存在である。いや、もしかしたら、作家としても忘れられかけているかもしれないが。

尾道はまだ行ったことがないが、尾道を訪れた際にはぜひ「おのみち林芙美子記念館」に立ち寄ってみたい。 


  


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