『国道16号線ー日本を創った道』(柳瀬博一、新潮文庫、2023)という本を読んだ。話題の本で、文庫化されたのを機会に一読。
面白い本だった。国道16号線という環状道路沿線の秘密を解き明かしてくれた本である。「流域論」の岸由二教授のもとで学んだ人らしく、「流域」の視点が冴える。人類は生活条件の整った「小流域」の近くに住みたがること、また「流域」を「沿線」に読み替えた視点など秀逸だ。
縄文遺跡の分布、源頼朝の右回りの関東制覇の話は興味深い。そして、東京中心を作り出した徳川家康の功罪。本来の国道16号線沿線が周辺に追いやられたのは、徳川家康による歴史捏造である、と。
だが、同時に残念な本であった。というのは、書かれている内容は、ほとんどが国道16号線の西半分の話であって、東半分の千葉の話は付けたし程度でしかないからだ。
結局のところ、「国道16号線」も「西高東低」か。まあ、わたし自身は西日本生まれだから、西高東低は理の当然だとは思うものの、少年時代以来、断続的とはいえ、長きにわたる千葉県北西部の住民としては、いかがなものかといいたくなる。
(国道16号線 本書に掲載された路線図)
たしかに、国道16号線の東半分は千葉県北西部と房総半島の内房を通るのだが、後者には「チバニアン」があるものの、東京湾に面しているが山が迫るばかり。前者はかつての江戸時代の「牧」であって、人よりも馬のほうがプレゼンスが大きかった地域である。
ところが、『国道16号線ー日本を創った道』には、馬と地方豪族の話がでてきながら、平将門も千葉氏の話もでてこないのである。まったくもって、ひどい話ではないか! せめて国道16号線東側を代表する政治家ハマコーさんくらい登場させるべきではないか。いや、それでは逆効果かな(笑)
『国道16号線ー日本を創った道』というタイトルに惹かれて読んだものの、不完全燃焼感といだいて残念に思う千葉県住民は、『「馬」が動かした日本史』(蒲池明弘、文春新書、2020)をあわせて読むべきだろう。
国道16号線の西半分は、横浜と八王子の「シルクロード」の話がメインなので、むしろここだけ切り離したほうがすっきりするだろう。
八王子から見たら、東京都心に行くのも、横浜に行くのもほぼ等距離である。新たな風が吹き込んできたのは、「開国」以降つねに横浜からなのであった。これは否定もしようのない厳然たる事実である。
「国道16号線」として最終的に確立したのは1963年だそうだ。わたしは1962年生まれ、著者は1964年生まれ。いずれも同世代である。
ただし、光化学スモッグ体験ではじゃっかんの違いがあるようだ。わたしが小学校低学年で在学していた東京都三鷹市の状況は、それはもう酷いものだったのだ。
目 次はじめに第1章 なにしろ日本最強の郊外道路第2章 16号線は地形である第3章 戦後日本音楽のゆりかご第4章 消された16号線 ― 日本史の教科書と家康の「罠」第5章 カイコとモスラと皇后と16号線第6章 未来の子供とポケモンが育つ道あとがき16号線をもっと知るためのリスト
著者プロフィール柳瀬博一(やなせ・ひろいち)東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授(メディア論)。1964年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、日経マグロウヒル社(現・日経BP社)に入社し『日経ビジネス』記者を経て単行本の編集に従事。「日経ビジネスオンライン」立ち上げに参画、のちに同企画プロデューサー。TBSラジオ、ラジオNIKKEI、渋谷のラジオでパーソナリティとしても活動。2018年3月、日経BP社を退社、同4月より現職に。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)
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