2023年8月13日日曜日

書評『硫黄島上陸 ー 友軍ハ地下ニ在リ』(酒井聡平、講談社、2023)- 死者たちの声に呼ばれた著者の執念が読者にも感染する

 

『硫黄島上陸 ー 友軍ハ地下ニ在リ』(酒井聡平、講談社、2023)を読んだ。 このノンフィクションはすごい。ひさびさに渾身の力作というべき本を読んだ思いだ。 

死者たちの声に呼ばれた著者の執念が、この本を読んでいる読者にも感染してくるのだ。 

「太平洋戦争」末期の沖縄戦の前に、激戦となったのが映画『硫黄島からの手紙』の舞台になった硫黄島だ。日米双方に多大な戦死者を出している。 

徹底抗戦した日本の守備隊2万人のうち、戦死者は1万9千を越え、95%が戦死している。ほぼ全滅といっていい。生き残った者は、圧倒的に少ないのだ。 ほとんどいないと言ってもいいくらいである。

だが、問題はそれだけではない。戦死者のうち半分の1万人が、いまだに行方不明のまま遺骨の収集も進んでいないということにある。 

著者の酒井氏は北海道の出身。祖父が小笠原の父島で戦死している。父島は硫黄島と本土との中継連絡地点だった。 祖父がかかわった硫黄島のことをもっと知りたくて、地方紙の北海道新聞の記者になる。

そんな酒井氏は、硫黄島からいまだ帰還していない戦死者たちの声によばれるかのように、事実解明を使命としてのめり込んでいく。 

その記録がこのノンフィクションとなって結実した。まさに渾身の一冊であり、この本を書くことは、著者にとっては運命であり、死者に対する義務であったのだろう。 

遺骨収集団の一員として参加した、著者の硫黄島体験記を読んでいると、正直いって精神的に疲れてきた。いや、死者たちの声なき声に憑かれたといってもいいかもしれない。それだけ重いテーマなのだ。 

「なぜ1万人がいまだ行方不明のままなのか?」。この謎を巡っての執拗な追跡が、最後の最後まで読ませるのである。 

一人でも多くの人がこの自称「旧聞記者」による「自分語りのノンフィクション」を読んで、知られざる「硫黄島の真実」について知るべきだ。 それは、敗戦後の日本について、その深層を知ることになる。




目次
プロローグ 「硫黄島 連絡絶ゆ」
第1章 ルポ初上陸 ― 取材撮影不可の遺骨捜索を見た 
第2章 父島兵士の孫が硫黄島に渡るまで 
第3章 滑走路下遺骨残存説 ― 地下16メートルの真実 
第4章 情報公開で暴いた硫黄島戦後史 
第5章 硫黄島「核密約」と消えた兵士たち 
第6章 戦没者遺児との別れ、そして再上陸へ 
第7章 硫黄島の元陸軍伍長「令和の証言」 
第8章 硫黄島ノ皆サン サヨウナラ
エピローグ 「陛下、お尋ね申し上げます」
あとがき
主要参考文献


著者プロフィール
酒井聡平(さかい・そうへい)
北海道新聞記者。土曜・日曜は、戦争などの歴史を取材、発信する自称「旧聞記者」として活動する。1976年生まれ、北海道出身。2023年2月まで5年間、東京支社編集局報道センターに所属し、戦没者遺骨収集事業を所管する厚生労働省や東京五輪、皇室報道などを担当した。硫黄島には計4回渡り、このうち3回は政府派遣の硫黄島戦没者遺骨収集団のボランティアとして渡島した。取材成果は Twitter などでも発信している。北海道ノンフィクション集団会員。本書が初の著書となる。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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・・弟子で養子の折口春洋(おりくち・はるみ)は、陸軍中尉として硫黄島で戦死している。Wikipediaの文章に加筆修正したものを下記に掲載しておこう。春洋の死は、戦後の折口による「他界観」の考察にも大きな影響を与えている。「民族史観における他界観念」(1952年)を参照。

***

昭和二十年 三月十九日、硫黄島方面で戦死の由、東京聯隊区司令官の名で報告があった。だが、詳細な死所およびその月日を知ることは出来ない
 
折口信夫は、米軍上陸の2月17日を折口春洋の命日と定め、「南島忌」と名づけた。 

折口信夫が建てた父子の墓は羽咋市にある骨は帰ってこなかったため、遺髪と軍刀が墓には収められている。折口信夫の撰した墓碑銘にはこうある。

もつとも苦しき
たゝかひに
最もくるしみ
死にたる
むかしの陸軍中尉
折口春洋
 ならびにその
父 信夫の墓

(折口信夫の父子の墓碑 羽咋観光協会のサイトより)





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