静岡県知事の川勝平太氏(75)が、みずからの「不適切発言」ゆえに「任期半ばの6月に辞職すると表明」したのは一昨日(4月2日)のことだ。
農業や畜産業は「知性」がないという発言。これまでも失言を繰り返してきた人だが、今回のあからさまな「職業差別発言」に情状酌量の余地はない。無意識のうちに、本心が露呈してしまったのだろう。
自分の発言がどう受け取られるかに鈍感で、コミュニケーション不全状態を招いていることにかんする自覚を欠いている。
失言で有名な麻生太郎氏(83)と同様、日頃から思っていることがついつい口に出てしまったのである。そう受け止めるのが自然である。
川勝氏による反対のための反対から、完工が遅れに遅れているリニア新幹線の是非については、ここでは問わないことにする。個人的には、異常に長いトンネル内での事故が怖いので、たとえ完成してもリニアに乗車することはないだろう。従来型の新幹線で十分だ。
■学者から政治家に転身したものの・・・
「晩節を汚す勿れ!」。これが川勝問題の焦点であると、わたしは個人的に考える。
川勝平太氏の「経済史家」としての業績は賞賛に値するものがある。すくなくとも、わたしはそう思ってきた。
16世紀から17世紀にかけて、西からはオランダとイングランド、東からは日本が東南アジアに進出、そこで「資本主義」が生まれたというのが、川勝氏の「文明の海洋史観」である。
言うまでもなく、梅棹忠夫の「文明の生態史観」を踏まえて、さらにその先を行こうとしたものだ。
上掲の写真は、マイライブラリーから取り出してきた川勝本の数冊であるが、川勝氏の学者としての全盛期は、1990年代後半のことであった。
NHKの教育番組「NHK人間講座」に出演したときの川勝氏は、滑舌もよく朗々とした語りでハツラツとしており、学者らしからぬものがあった。
京都出身でありながら早稲田の政経に進学したことにもあるように、もともと政治家に憧れを抱いていたのであろう。当時の書き物からも、それはうかがわれる。
とはいえ、学者としての業績と名声は、静岡県知事としての失敗と悪名によって帳消しになりかねない。いや、台無しになってしまったというべきか。
75歳にもなりながら、人間を磨き切れていなかったということか。自らを律し切れていなかったということか。
長年にわたる「先生稼業」がその人の本性となり、自分以外はみんなバカ、あるいは「できの悪い生徒」くらいにしか思ってなかったのかもしれない。
学問上の業績と人格は切り離して考えるべき、という議論もあろう。是々非々である。だが、日本という風土においては、それは成り立たない。政治家の「先生」はさておき、学者としての「先生」は文字通りの「教師」であり、政治家以上に強い倫理観が求められるからだ。
政治家とうまく付き合い、政治家をつかいこなして、「民族学博物館」をつくるという夢を実現した梅棹忠夫を超えることはできなかったのである。川勝氏は、後世にどう評価されることになるのだろうか?
心すべきは「晩節を汚す勿れ」の一言に尽きる。これが川勝問題から得られる最大の教訓だ。他山の石としなくてはならない。
政治家や経済人だけでない、学者や研究者、その他すべての職業につてもそうだが、肝に銘じておかねばならない。引き際の美学が必要である。なんせ「人生100年時代」なのだから。
PS 4月10日に辞職届を出すとのことだが・・・
さすがに6月は遅すぎるという批判には対応したということか。2ヶ月間前倒しで4月10日に辞職届を出すという。どうも、それは表向きの理由のような気がしてならない。まったく信用されていないから。 (2024年4月8日記す)
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