2024年9月3日火曜日

同時代に生きた「アメリカでもっとも尊敬された大統領」と「アメリカでもっとも愛される詩人」を描いた映画『リンカーン』と『静かなる情熱』を2本つづけて視聴(2024年9月1日)ー 19世紀なかばの「内戦」(=南北戦争)の時代に現在につながるアメリカの基礎が形成されたことを実感

 

 日本では「南北戦争」として知られる、アメリカ史上最大の犠牲者を出した "The Civil War" (=内戦)の時代に生きた2人のアメリカ人。この2人を描いた映画を2日にわけて視聴した。 

スピルバーグ監督による映画『リンカーン』(2012年、米国)『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』(2016年、英国)である。それぞれ151分と125分。いずれも日本公開時に映画館にいく機会を失したので、いまDVDで視聴することにした次第。ただし、視聴した順番は逆である。 

エイブラハム・リンカーン(1809~1865)を知らないという人は、日本ではまずいないだろう。「人民の人民による人民のための政府」(Government of the people, by the people, for the people)というフレーズは高校で習うはずだ。「アメリカでもっとも尊敬され愛された大統領」である。 

とはいえ、同時代に生きた詩人のエミリ・ディキンソン(1830~1886)については、知らない人がいるかもしれない。だが、彼女は「アメリカでもっとも愛される詩人」である。


(エミリ・ディキンソン17歳のときの写真 Wikipediaより)



■同時代に生きた2人のアメリカ人に共通するもの 

中西部オハイオ出身で、弁護士出身の政治家として、自分の信念に忠実に生きて、奴隷制を廃止することに成功したリンカーン。「内戦」を終結にもっていくことに成功したが、暗殺されてその生涯を終えた人。 

一方のエミリ・ディッキンソンは、戦場からは遠く離れたニューイングランドで、あたかも戦争の影響などないかのように、深夜自室でひたすら自分の内面を見つめて詩作に専念したエミリ。だが、生前に発表した詩はわずか10編に過ぎなかった「知られざる詩人」。 

リンカーンが vita activa の人であったとすれば、ディキンソンは vita contemplativa の人であったといえよう。 

あまりにも対照的な人生であったが、同時代に生きていたこと以外にも、この二人に共通することがある。それは、ともに「自分自身に忠実に生きた人」たちであったということだ。いいかえれば「自己信頼」(self-reliance)の精神を生きた人たちであったというべきかもしれない。

映画『静かなる情熱』(The Quiet Passion)は、内戦時代でありながら、自分の外部で起きている事件に患わされることなく、自分の内面を見つめた詩人の生涯を描いている。 

マサチューセッツ州アマーストの美しい映像を背景に、詩人自身に詩がセリフとして語られる。実際にアマーストでロケが行われているので、新島襄や内村鑑三がそこで過ごし学んだ土地を、映像として体感することもできるだろう。 

『リンカーン』(Lincoln)のほうは、内戦が4年目に入った1865年1月から28日間の出来事を凝縮して描いたものだ。 南軍が降伏する前に、なんとしてでも「合衆国憲法修正第13条」(The Thirteenth Amendment)を下院で可決に持ち込み、奴隷制を法的に廃止に持ち込むという、議会での攻防戦を描いたものである。

理想の実現のため、当時は奴隷制が存在した南部を地盤としていた民主党議員たちを買収によって切り崩すという、非合法すれすれのタクティクスを駆使した議会工作によって法案を可決に持ち込んだリンカーン。政治家がみずからのもつ「権力」をいかに、そして正しい目的のために行使するか、その生きた実例だといっていいだろう。 

そんなリンカーンを描いたスピルバーグ監督の力量に感嘆するとともに、内戦とは遠く離れた土地で、内戦の影響を間接的に受けながらも「自分の内面を見つめていた詩人」のことも考えるのである。

「アメリカでもっとも尊敬され愛された大統領」であるリーンカーン、「アメリカでもっとも愛される詩人」であるエミリ・ディキンソン。 

あまりにも対照的な人生を描いた二人だが、同時代に生きた人であっただけでなく、まさに19世紀前半から半ばにかけて、現在のアメリカの基礎がつくられたのだなと、あらためて実感している。 


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・・「全8巻のなかにあって、転換点となる第6巻にあたる『美しき魂の告白』。ある女性がつづった手記という形をとった、これじたいがひとつの短編小説のような内容だが、ひたすら自分の「内面の声」に忠実に生きようとした女性の、神との対話をつうじた自己の確立を描いたものだ。このような生き方は、現代でも外的世界とさまざまなコンフリクトを生み出すことは言うまでもない。」



・・「この映画のもう一人の主人公である「合衆国憲法」、とくに「権利章典」ともいわれる「合衆国憲法修正10カ条」(1791年制定)が大きな存在感を示す。合衆国憲法には、「人権」について定めた「権利章典」が欠けていたので、「修正」(Ammendments)という形で付加された。(・・・中略・・・)
「銃規制」については、一般市民による銃器所有を正当化する根拠となるのが「合衆国憲法修正第2条」である。つまり「銃器の所持と携帯」は「武装権」であり「自衛権」であり、米国人の認識においては「人権」なのである。「基本的人権」なのである。
(・・・中略・・・)そしてこの映画は、いきなり「修正第5条」から始まる。主人公がロビー活動において非合法な手段を用いて倫理違反を行ったのではないかという件にかんする上院の公聴会で、主人公は委員長の質問のすべてについて「修正第5条」をたてに証言を拒む。」

・・「スノーデン氏自身、「合衆国憲法」への思い入れが強く、とくに「憲法修正第4条」の「不当な逮捕・捜索・押収の禁止、安易な礼状発行の禁止」へのこだわりが、NSAによる通信監視の実態を暴露する動機になったようだ。」


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