『福音派 ― 終末論に引き裂かれるアメリカ社会』(加藤喜之、中公新書、2025)を読んだ。 現在のアメリカを理解するための必読書だといっていいだろう。じつに読みやすい良書である。ベストセラーになっているのも大いにうなづける。
内容は、現在ではアメリカのキリスト教の多数派になっている「福音派」(エヴァンジェリカル:Evangelicals)の伸張を軸にして、1920年代から2020年代の現在にいたるまでのアメリカ現代社会を、とくに政治とのかかわりに重点をおいて通観したものである。
「分断」の原因のひとつが福音派の伸張にあるのは、宗教が政治に大きく食い込む状況になっているからだ。福音派を支えているのは相対的に小さくなりつつあり、追い込まれ感と被害者意識が強い白人層である。
「福音派」が全面にでてきたのは、1976年のジミー・カーターが大統領になった頃である。わたしの自分史においては、英語を勉強し始めて2年目の中学2年生のときだ。いまから50年前、ちょうど「アメリカ建国200年」の年であった。ということは、わたしは非キリスト教徒であるものの、「福音派」の伸張を対岸から見てきたことになる。
「反共」を全面に打ち出していたレーガン時代を経て、ブッシュ(パパ)時代の1990年からあしかけ3年間の対米経験をつうじて、より身近で観察している。 自分にとっては、本書によって自分なりの観察と考察が、思想史と宗教学を専門とする著者の記述によって、体系的に整理される機会を得たことになった。もちろんん、若い世代の読者にとっては、本書の内容は新鮮な印象を受けるかもしれない。
本書に登場するキー概念はいくつかあるが、「福音派」は本書全体で説明されるからよいとして、簡単に触れられている「ディスペンセーション」(dispensation)については、コラムで詳しく解説したほうが良かったのではないかと思う。
日本人の多数派の非キリスト教徒にとっては、きわめて違和感の強い概念であるが、「福音派」の人たちがイスラエルを熱烈に支持しているのか、その理由を知るためには、かならず理解しておくことが必要である。
「福音派」が伸張してアメリカ社会全体に大きく影響するようになった現在だが、一方では「ノンズ」(Nons)という脱教会の流れも定着しているという。後者はすでに全人口の3割になっている。
著者のことばを借りれば、「宗教と政治の境界線が曖昧に」なっているのが第2次トランプ政権をめぐる状況である。「福音派」と「MAGA派」の関係がどうなっているのか、本書の記述からはわからない(・・おそらく重なりあっているのだろうが、イスラエルの位置づけには違いもある)、この動きはこのまま続いていくのかどうか。
現時点では確定的なことはいえないが、現在の「分断」の原因のひとつとなっていることを理解しておく必要がある。
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目 次序章 起源としての原理主義第1章 「福音派の年」という転換点 ― 1950年代から70年代第2章 目覚めた人々とレーガンの保守革命 ― 1980年代第3章 キリスト教連合と郊外への影響 ― 1990年代第4章 福音派の指導者としてのブッシュ ― 2000年代第5章 オバマ・ケア vs. ティーパーティー ― 2010年代前半第6章 トランプとキリスト教ナショナリズム ― 2010年代後半から終章 アメリカ社会と福音派のゆくえあとがき主要参考文献/略年表/主要人名索引
著者プロフィール加藤喜之(かとう・よしゆき)立教大学文学部教授。1979年愛知県生まれ。2013年、プリンストン神学大学院博士課程修了(Ph.D取得)。東京基督教大学准教授、ケンブリッジ大学クレア・ホールやロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでの客員フェローなどを経て、現職。専門は思想史、宗教学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
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