2025年12月31日水曜日

書評『縄文 革命とナショナリズム』(中島岳志、太田出版、2025)― 「縄文」という切り口で読みとく「戦後日本」の「精神史」

 

2025年(令和7年)の読み納めは、『縄文 革命とナショナリズム』(中島岳志、太田出版、2025)。年末年始の休みは、仕事とは直接関係ない本を読むには適している。  

「縄文」という切り口で読みとく「戦後日本」の「精神史」である。この3つがキーワードである。 

大東亜戦争の敗戦によって、全否定されるにいたった「皇国史観」。戦中期には、オカルト的なまでにエスカレートしていた皇国史観にかわって注目されるようになったのが縄文だ。 日本と日本人のアイデンティティをどこに求めるか、その問いに対する答えとして注目されるようになったのである。

現代インド研究から出発して、現在は思想史の分野で活発に執筆活動を進めている著者は、1950年代の岡本太郎の「縄文発見」から始めて、民藝運動の行き着いた先、そして1960年代には南西諸島に日本の古層を見る作家や思想家たちの言説をていねいにたどっていく。この時代の言説は、著者のいう「縄文左派」である。 

そして、近代文明批判の観点から1970年前後に全面にでてきたオカルトブームや、反体制的なヒッピームーブメントを経て、そのなかから生まれてきたエコロジーへの関心のなか、1980年代には「縄文左派」の内側から「縄文右派」への流れが生まれてくる。 

かつて左派によって天皇制を超えるものと見られていた縄文だが、日本が経済的に絶頂期を迎えた1980年代には、ナショナリズムと結びついて「縄文右派」の優勢を迎える。梅原猛に代表される「新京都学派」の言説が国民のあいだに浸透していった。 

そして、2020年代の現在、「縄文ナショナリズム」はスピリチュアルと結びついていく。この段階になると「左派」と「右派」の違いはきわめてあいまいとなり、同一人物のなかでは矛盾と感じられなくなっていく。 

戦後日本の精神史をざっと眺めたらそんな感じになるわけだが、結局のところ人びとが見たいもの、そうであってほしいものが投影された存在が「縄文」だというわけなのだ。 

さて、2020年代も半ばを過ぎて、「縄文」に対する日本人の思いはどう変化していくのだろうか。日本をめぐる国内外の危機がエスカレートしていきつつある現在、この流れは加速していくのかどうか、考えてみるのも面白い。 


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目 次
序章 戦後日本が「縄文」に見ようとしたもの 
第1章 岡本太郎と「日本の伝統」 
第2章 民芸運動とイノセント・ワールド 
第3章 南島とヤポネシア 
第4章 オカルトとヒッピー 
第5章 偽史のポリティクス  ―  太田竜の軌跡 
第6章 新京都学派の深層文化論  ―  上山春平と梅原猛 
終章 縄文スピリチュアルと右派ナショナリズム 
あとがき 
参考文献


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