『劇画の巨星 川崎のぼる伝』(読売新聞西部本社文化部、ホーム社、2026)を昨日一気読みした。360ページの大冊である。
本書は、マンガ家・川崎のぼるを取り上げた初の本格評伝である。読売新聞の九州・山口版に掲載された聞き書きをベースにしてたものだという。
川崎のぼるといえば、まずあげるべきは『巨人の星』であろう。先日お亡くなりになった、ちばてつやの『あしたのジョー』と並び称されるべき日本マンガ史上の金字塔的作品だ。
川崎のぼるを軸にして「戦後マンガ史」を捉え直したいという試みは、十二分に成功しているといっていい。いや、焼け跡から再出発した「戦後史」そのものと言ってもいいだろう。
手塚治虫以来、子ども向けと見なされていたマンガに、リアルな劇画の手法を持ち込んだのが川崎のぼるである。その意味は、本書ではじめて知ることができた。
わたし自身は、世代的には『巨人の星』も『あしたのジョー』もアニメ版で見ていただけで、原作のマンガは読んでいない。マンガ版の原作は、ともに元文学青年(!)であった梶原一騎によるものだ。 ヒューマンに漢字をあてはめて飛雄馬という名前をつくったのは梶原一騎だったのか!
マンガ家とマンガ原作者、そしてマンガ編集者による三位一体があったからこそ実現したのが『巨人の星』であり、『あしたのジョー』だったのだ。異様なまでに熱かった時代の作品である。
(『ジョー&飛雄馬 VOL.1 (少年マガジン名作コレクション』2003年)
ともに20歳台であったマンガ家と原作者の関係は、締め切りに追われる状態でのプロどうしの真剣勝負であり、つばぜり合いのような関係があったからこそ、歴史に残るようなすばらしい作品ができあがったのである。
この件については、付録の「ちばてつやインタビュー」も参考になる。これを読むと、ちばてつやと川崎のぼるでは、原作者の梶原一騎とのかかわり方の違いがあったことがよくわかる。
(主題歌のOPとEDを歌っているのは若き日の天童よしみ)
『巨人の星』は別格として、『いなかっぺ大将』(1970年~1972年)と『荒野の少年イサム』(1973年)は、TVアニメでリアルタイムで見ていて大好きだった。このほか、白黒だった『スカイヤーズ5』(1967年)も再放送で見ている。
いずれも川崎のぼるのマンガが原作であることは昔から知っていたが、マンガ版は読んでいない。しかも、『荒野の少年イサム』の原作が戦前日本の少年たちを熱狂させた絵物語作家の山川惣治だったとは!
その意味では、アニメ版とマンガ版との違いを知ることがきただけでなく、マンガ家としての川崎のぼるについて、はじめて知ることも多かった。
マンガ家になるまでの貧しい半生やカトリックであること、マンガ作品の成立事情、作画において影響を受けた人たちや、同時代とそれ以降のマンガ家にあたえた影響の大きさについて、である。
読売新聞西部本社が川崎のぼるを取り上げたのは、『巨人の星』こが読売ジャイアンツそのものであるだけでなく、このマンガ家が九州とは深い関係があるからだろう。
1941年の大阪生まれだが長崎で暮らし、中卒で働きに出て大阪で貸本マンガ家として出発したが、その後は東京を中心に少年誌を中心に活動、60歳で自分のプロダクションを解散してからは、配偶者の出身地である熊本で暮らし、絵本作家として活動している。
そんな川崎のぼるについて、こういう形で「戦後マンガ史」にかんする証言が残されたことは、大いに意義のあることだ。原画もカラーとモノクロで100枚近く収録されている。ポップカルチャーを軸にした「戦後史」としても価値ある一冊である。
目 次序にかえて第1部 大志第1章 遠い日の記憶第2章 少年時代第3章 デビュー第4章 劇画村第5章 青春群像第6章 沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり第7章 一匹狼第2部 巨人の星第8章 三位一体第9章 飛雄馬ニズム第10章 大リーグボール第11章 「巨人の星」 原画選付録 ちばてつやインタビュー第3部 傑作の森第12章 八面六臂第13章 荒野の少年イサム第14章 危機第15章 新しい道終章 熊本からあとがき主要参考文献川崎のぼる年譜
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