2009年6月6日土曜日

前橋汀子 アフタヌーン・コンサート Vol.5 (ピアノ:イーゴリ・ウリヤシュ)




        
 日本人ヴァイオニストでは、前橋汀子と諏訪内晶子の二人が突出している。独断と偏見による私の選択である。

 もちろん、ソリストでは男性でいえば全盲の川畠成道、それから葉加瀬太郎、古澤巌(この二人のブルース・ブラザーズは面白い)、女性でいえば千住真理子、五嶋みどり、天満敦子など、演奏の技量的にも、音の醸し出す情感からいっても世界レベルの素晴らしいヴァイオリニスが数多くいる。

 前橋汀子と諏訪内晶子の二人は、日本人アーチストであるが、演奏スタイルを必ずしも日本の聴衆に合わせようとはしていない点がいい。自分のスタイルを徹底的に追求して、聴衆にまったく媚びていなないところが好きなのだ。もちろん私が男性であり、きれいな女性が好きだ、ということも大きいかもしれないが。

 前橋汀子はレニングラード音楽院のあとジュリアード音楽院の卒業、諏訪内晶子はチャイコフスキー国際コンクールで優勝したが、ソ連には留学しないでいきなり米国に留学、現在活動の中心をパリにおいている。二人の違いは世代の違いであろう。

              
 前橋汀子は活動の中心を日本においているのでありがたい。
 
 「アフターヌーン・コンサート」は毎年催されているのだが、私にとって今回で二回目である。昨年はバンコクにいたので不可能、一昨年は急遽きまった海外出張のため断念。

 パフォーマンス・アートはプレイヤーにとっては一回限りの真剣勝負であり、聴衆にとっても一回限りでの遭遇体験であるので、多忙なビジネスマンにとっては、いくら事前にスケジュール調整しても断念することが多々あって残念だ。とくにオペラやバレエのチケットは高いし・・・再現性のあるCDやDVDに依存するのは仕方がない。

 バンコクにいてもっとも不満を強く感じたのは、芸術のレベルが正直言って高くないことである。世界レベルの美術展や音楽コンサートがあまりこない。それに比べると日本、とくに東京は突出している。もちろん欧州とは比べようもないが、それでも芸術関連では、アジアの中ではケタ違いの集積度といえるだろう。


 本日のコンサートはサントリーホール(東京)だが、このあと横須賀、岩手、大阪と続くようで、地方都市でもいかに文化レベルの高い国であるかがわかる。

 コンサートの前半はモーツァルトとベートーヴェン、後半は小品集。アンコールは結局5曲くらい。 
 その日の気分で演奏した曲を即興で決めることができるので、アンコールというよりも「プログラム外プログラム」といったほうがいいだろう。むしろこの「プログラム外プログラム」のほうが、興にのった上でさらに入魂の演奏になっており、コンサートでライブ演奏を聴く甲斐があるというものだ。

 何かが憑依したような、しかし凛とした美しさのある演奏スタイルは、魂の響きを奏でるこの人ならではのもの。好みは分かれるかもしれないが。

 前橋汀子の真骨頂が小品集にあるとことには異論はない。自ら楽譜を探して演奏を再現するということをずっとやってきており、その成果は6枚のCDに結晶している。

 ただ彼女のCDで一番好きなのは、「J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ全集(二枚組)」で、このCDは15年近く何度も聴きこんできた。

 日本人ヴァイオリニストの中では突出した演奏は、amazonの評者たちもいうように、私も彼女の「最高傑作」の一枚だと思っている。ストラディヴァリウスを貸与されている他のアーチストの「パルティータ」も買ってはみたが、結局一回聴いておしまい、となってしまっているくらいだ。ちなみに前橋汀子のヴァイオリンは、1736年製作のデル・ジェス・グァルネリウスとのことである。

 前橋汀子のパルティータには、聴きこませるだけの力がある。ぜひ聴いてほしいものだ。

          




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