2010年11月10日水曜日

What if ~ ? から始まる論理的思考の「型」を身につけ、そして自分なりの「型」をつくること-『慧眼-問題を解決する思考-』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2010)




What if ~ ? (もし~だったらどうする)から始まる論理思考法の「型」を身につけるために

 『慧眼-問題を解決する思考-(大前研一通信特別保存版 PartⅣ)』、ビジネスブレークスルー出版、2010) の献本を「R+ レビュープラス」からいただいた。「大前研一 LIVE秘蔵映像~慧眼編~の DVD一枚がついている。

 本書は、大前研一がさまざまな媒体に書いて、語った最近の発言が再編集されて一冊にまとめられたものだ。

 テーマは大きく分けて4つある。1.教育・ビジネス、2.経営戦略、3.政治・経済、4.観光 である。まず目次をみておこう。

目 次

第1章 教育・ビジネス編
 1. 日本を蝕む「リスク放置」症候群
 2. 日本人に一番欠けていること
 3. 哲学的思考力の鍛え方
 4. 楽ユニ・ショック

第2章 経営戦略編
 1. イオンの葬儀ビジネス
 2. トヨタなら構築できる住宅の世界最強モデル

第3章 政治・経済編
 1. 日本国債暴落・デフォルト危機!
 2. グレートソサエティー(偉大な社会)を目指せ!
 3. 年金問題
 4. 道州制への道

第4章 観光編
 1. もしも私が観光庁長官だったら
 2. 観光庁が外国人向けにスマートフォンで情報提供へ


 まさに旬の話題をたたき台にして、思考訓練を行うのが目的だ。

 大前研一の語るところを読んで、視聴しながら、「なるほど!」とつぶやいたり、「いやそれはちょっとちがうのではないか?」と自問自答してみるのもいいだろう。

 たとえば、ビジネスパーソンであれば、「第2章 経営戦略編 2. トヨタなら構築できる住宅の世界最強モデル」が面白い。
 ちなみに、もし私がトヨタの社長だったら、電気自動車(EV)とスマートグリッドを組み合わせた住宅都市開発デベロッパー事業構想まで踏み込みたいところだ。
 日本で難しいのなら、インフラ開発の進展に応じて米国やドイツ、シンガポールなどでも可能ではないだろうか。やり方はいろいろなパターンとバリエーションがあるし、それぞれの国ごとに法規制も異なるので、アライアンスも含めて検討してみると面白いかもしれない。
 検証していないので、単なるアイディアに過ぎないが。

 本書で大前研一が強調しているのは、What if ~ ? (もし~だったらどうする)から始まる論理思考法の「型」についてである。

 とくに必要なのが、「もし~だったら・・」の仮定を、「もし自分がその事業の当事者であったらなら・・」、「もし自分がその事業の責任者であったらなら・・」と想定することだ。
 評論家ではなく、当事者として、責任者としてコミットせざるをえないと想定したときに、では自分ならこの状況はこのように整理して、このように構想を練って、その構想を実現するべきく動くというサイクルを「頭で汗をかく」ことによって実行することだ。

 まずは、前提から疑ってみること。そして「なぜ?」を問い、問題の本質を発見し、そのための問題解決の方法を駆使して考え抜くこと。
 当事者として考えるために求められるのは、論理的思考能力、本質論を問う哲学的思考力、質問力などである。

 自分のアタマで考えるとはそういうことだ。大前さんの言っていることだからなんでも納得というのでは、全く意味がない。異論、反論、大いに結構。そうでなければ、自分のアタマで考えたことにはならない。アタマで汗をかいたことにはならないのである。


「守破離」-「型」(フレームワーク)を身につけて「型」(フレームワーク)を超えよ!

 「あとがき」で担当者が、「守破離」について書いている。「守破離」とは、日本の伝統芸能や武道における上達論として、むかしから語られてきたことだ。

 まず「守」で型を覚え、次に型を「破」って自分なりの発展を試みて、最後には型を「離」れて自分の型を作り出すこと。
 大前研一もまた、「フレームワーク」について語っている。フレームワークとは直訳すればワクのことだが、日本語の型と同じだと考えて問題ないだろう。

 大前研一は、「フレームワークは壊すもの」といっている。

別の誰かが作ったフレームワークに従って考えているようではダメなのである。フレームワークだけを知識として学んだ人は最初から頭がフリーズしてしまう・・自分ならどうするかを考えなければならない」(P.24)

 ここ数年、「フレームワーク、フレームワーク」と叫んで有名になった経済評論家がいるが、大前研一の爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいものだ。読者もアタマをデフリーズしなくてはならない。

 型(フレームワーク)を覚えて、型(フレームワーク)を破り、最後には型(フレームワーク)を壊して「離」れ自分の型を作り出す。自分のアタマで考えるクセをつければ、かならずその域に達することは間違いない。

 必要なのは鍛錬、鍛錬、そして鍛錬である。カラダだけでなく、アタマも鍛錬しなければ成長しないだけでなく、あっという間に退化してしまう。

 「守破離」の話は、武道をやっていた私には十二分に納得できるコトバである。

 また、大学時代の恩師である歴史学者・阿部謹也もまた、研究者として独り立ちするとは「自分なりの方法論」を確立することだと生前語っていた。これは「型」の議論と本質的に同じである。

 「型破り」な発想をするためには、まず「型」(フレームワーク)を身につけることから始めなければならない。しかし、その「型」(フレームワーク)も身につけたら破って、自分の「型」(フレームワーク)を創り出す。この段階で、「型やぶり」が「型」として、真に自分のものとなっているのだ。

 このことは肝に銘じておきたい。







<付記>

What if ~ ? (=もし~なら、どうなのか?)という英語表現は、なぜか日本の英語教育では学習されないのだが、きわめて重要な表現であり発想である。
ふと思いついたのだが、What if ~ ? は「もし~かも」思考としておくと記憶しやすいかもしれない。「もしかも」でどうだろう? (2014年7月23日 記す)




<関連サイト>

Randall Munroe: Comics that ask "what if ?"
・・「Web cartoonist Randall Munroe answers simple what-if questions ("what if you hit a baseball moving at the speed of light?") using math, physics, logic and deadpan humor. In this charming talk, a reader’s question about Google's data warehouse leads Munroe down a circuitous path to a hilariously over-detailed answer — in which, shhh, you might actually learn something.」 突飛もない「もし~」を考えて、それをロジカルに跡づけてみる。TEDトークを視聴して考えてみよう。英語字幕の表示は可能

もしノルマンディー上陸作戦が1年早く敢行されていたら(野中郁次郎のリーダーシップ論-史上最大の決断 第3回) (野中郁次郎、ダイヤモンドオンライン、2014年6月13日)
・・「歴史から教訓を得るには、史実の背後にある関係性を洞察する力が不可欠である。「歴史のif」、すなわち、史実に基づくシミュレーションは、その力を養う最良の方法だ。そこで今回は、ノルマンディー上陸作戦における3つのifを挙げてみたい」  凡庸な歴史家にはない発想

(2014年5月9日 項目追加、 2014年6月13日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

大前研一関連

書評 『クオリティ国家という戦略-これが日本の生きる道-』(大前研一、小学館、2013)-スイスやシンガポール、北欧諸国といった「質の高い小国」に次の国家モデルを設定せよ!

書評 『この国を出よ』(大前研一/柳井 正、小学館、2010)

書評 『警告-目覚めよ!日本 (大前研一通信特別保存版 Part Ⅴ)』(大前研一、ビジネスブレークスルー出版、2011)-"いま、そこにある危機" にどう対処していくべきか考えるために

『BBT on DVD 大前研一LIVE』(トライアル版)を視聴してみた
・・『企業参謀』は、この分野ではロングセラー

「遊ぶ奴ほどよくデキる!」と喝破する大前研一の「遊び」の本を読んで、仕事も遊びも全力投球!

書評 『進化する教育-あなたの脳力は進化する!-(大前研一通信特別保存版 PART VI』(大前研一、ビジネス・ブレークスルー出版事務局=編集、2012)-実社会との距離感が埋まらない教育界には危機感をもってほしい
・・営利のインターネット大学ビジネスブレークスルー大学の学長である大前研一氏


思考訓練と「型」の習得

本の紹介 『ユダヤ感覚を盗め!-世界の中で、どう生き残るか-』(ハルペン・ジャック、徳間書店、1987)
・・論理的思考訓練を5,000年以上行ってきたユダヤ人の思考法

カラダで覚えるということ-「型」の習得は創造プロセスの第一フェーズである

『武道修行の道-武道教育と上達・指導の理論-』(南郷継正、三一新書、1980)は繰り返し読み込んだ本-自分にとって重要な本というのは、必ずしもベストセラーである必要はない

「学(まな)ぶとは真似(まね)ぶなり」-ノラネコ母子に学ぶ「学び」の本質について

書評 『プロフェッショナルを演じる仕事術』(若林計志、PHPビジネス新書、2011)-「学ぶとは真似ぶなり」という先人の知恵を現代風にアレンジした本

書評 『模倣の経営学-偉大なる会社はマネから生まれる-』(井上達彦、日経BP社、2012)-「学ぶとは真似ぶなり」とは、個人でも会社でも同じこと

put yourself in their shoes 「相手の立場になって考える」

「三日・三月・三年」(みっか・みつき・さんねん)・・「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を錬とする」(宮本武蔵)

(2014年1月30日 情報を追加して関連記事を再編集)
(2014年9月7日、2015年11月27日 情報追加)

 


(2017年5月18日発売の新著です)


(2012年7月3日発売の拙著です)







Clip to Evernote 


ケン・マネジメントのウェブサイトは
http://kensatoken.com です。

ご意見・ご感想・ご質問は  ken@kensatoken.com   にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。



end