■30年に及ぶ研究歴を振り返った著者がつづる科学的発見の苦しみと喜びに満ちたプロセス■
「冬眠」のメカニズムの解明に30年近く携わってきた研究者による、発見のプロセスと研究の苦労と喜びを時系列で書き記した本。
「冬眠」している動物の観察というよりも、「冬眠」という現象のメカニズムに、薬学と遺伝子研究の観点から迫った、30年にわたる地道な研究の記録である。
今年2010年の秋は、クマがなかなか冬眠しないので、日本全国でヒトが襲われる被害が続発している。こんなニュースが毎日のように流れているなか、軽い気持ちでこの本を読み始めた。
ところが、本書は冬眠する動物をまんべんなく解説したものではないことが、読み始めてすぐにわかった。 実験動物として選び出したシマリスについての研究である。
-なぜ「冬眠」するのか?
-「冬眠」をもたらずメカニズムは何か?
-「冬眠」とはそもそも哺乳類にとっていかなる意味をもつのか?
-人間にも備わっている「冬眠能力」とは? などなど、次から次へとでてくる疑問の数々に答える探求の旅の記録なのである。
「問題解決のまえに問題発見」がある。問題解決がまた次なる問題発見につながっていくという好循環。
専門的なことは門外漢の私には判断する能力はないが、「冬眠」研究における発見プロセスの記述がきわめて面白く感じられた。研究における問題解決のためには、著者が「あとがき」でも記しているように、個人のもつ感性(個性)、突然やってくる出会いの時、答えを導く矛楯が、問題解決のために大切なことなのである。
ほとんど手がつけられていなかったテーマを追い続けた研究は、その切り開いてきた研究領域と成果によって、無限の可能性を開きつつあるといってよい。
「冬眠」研究の最新成果がいかにして導き出されてきたか、これを著者の記述にしたがって読んでいくと、だんだんと謎が解明されていくプロセスを再体験することができるのだ。
結論から先に読むのではなく、著者といっしょに科学的発見の苦しみと喜びに満ちたプロセスを追体験してみたい。
自分で問題発見して課題設定を行い、自分で問題解決していく姿勢には、科学者ではなくても、大いに学びたいものである。
<初出情報>
■bk1書評「30年に及ぶ研究歴を振り返った著者がつづる科学的発見の苦しみと喜びに満ちたプロセス」投稿掲載(2010年12月9日)
■amazon書評「30年に及ぶ研究歴を振り返った著者がつづる科学的発見の苦しみと喜びに満ちたプロセス」投稿掲載(2010年12月9日)
目 次
序章 冬眠の世界への入り口
発想の瞬間 / 幻の冬眠物質 / 難攻不落の壁 / 体温低下は本質か
第1章 低温で生きる体の秘密
1. 心臓の働きと細胞膜
2. 心臓の低温保存
3. 冬眠状態の体
4. 冬眠できる心臓の秘密
5. 低温に耐える細胞
6. 新たな挑戦との出会い
第2章 冬眠物質を求めて
1. 冬眠物質は存在するか
2. 冬眠特異的蛋白質の発見
3. 一年を刻む体内休眠時計
第3章 人工冬眠は可能か
1. 冬眠の本質
2. 中途覚醒の謎
3. HPは冬眠物質か
4. 人工冬眠の可能性
第4章 冬眠がもたらす長寿
1. 常識を超えた長寿
2. 寿命とは何か
3. 長寿の原因
4. 長寿を生むシステム
第5章 ヒトと冬眠
1. ヒトは冬眠できるか
2. 不老長寿は実現するのか
3. 冬眠からのメッセージ
あとがき
参考文献
著者プロフィール
近藤宣昭(こんどう・のりあき)
1950年愛媛県今治市生まれ。1973年徳島大学薬学部卒業。1978年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、薬学博士。三菱化成(後、三菱化学)生命科学研究所主任研究員、(財)神奈川科学技術アカデミーを経て、玉川大学学術研究所特別研究員。専攻は薬理学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。
<書評への付記>
「第3章 人工冬眠は可能か」の議論について、人間の冷凍保存に取り組んでいるマッド・サイエンティスト(?)が米国にはいるようだが、ここでいう「人間の冬眠能力」とはそういった議論のことではない。
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(2014年8月22日 情報追加)
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