2011年3月27日日曜日

「地震とナマズ」ー ナマズあれこれ 


原因がプレートであろうが、巨大ナマズであろうが、地震は人間のチカラでは制御できない存在だ

 日本では江戸時代までは、地震の原因は巨大ナマズが暴れるからだと一般大衆には信じられてきました。日本列島は巨大なナマズの背中に乗っているのだ、と。残念ながら、今回も巨大ナマズが大暴れしました。

 江戸時代の「鯰絵」(なまずえ)をみていると実に面白いものがあります。「安政の大地震」(1855年)後に大量に発行されて、ひろく一般庶民のあいだで流通したものです。

 「安政の大地震」は、1855年11月11日に発生した大地震で、震源は東京湾北部・荒川河口付近、現在からの推測値では M6.9、死者約4300人、倒壊家屋約1万戸といわれています(wikipedia の記述による)。

 こころみに Google の画像検索で「鯰絵」で調べてみてください。実にさまざまなテーマがでてきます。冒頭に掲げたものは、そのなかでももっとも有名なものです。大地震を引き起こした大ナマズを、江戸の町人たち懲(こ)らしめているもの。

 鯰絵を見ていると、現代の日本人は、さまざまな感性が衰えてしまっている気がしてなりません。

 現在では、ナマズが暴れて地震を起こすなどとは日本人は考えていませんが、ナマズには地震の予知能力があるようです。ただし、これについては必ずしもナマズには限らないようです。地震のまえに鳥の集団がいっせいに飛び立ったり、さまざまな事象が観察されています。

 地震は人間のチカラでは抑えようがないのも事実です。今回の大震災でも、出てくるのは「想定外」、「想定外」というあきらめを誘発しがちな無責任な発言ばかり。結局のところ、科学には限界があるのです。とくに実験室で観察することが不可能な地球科学は、その最たるものだといっていいかもしれません。

 大自然のチカラはちっぽけな人間からみれば、まったくあなどれません。地震を起こす原因がプレートにあることも、定説になってからまだ30年もたってない理論に過ぎません。

 江戸時代の日本人がナマズが原因であるとしていたのを笑うのは簡単ですが、大自然のチカラはちっぽけな人間からみれば、まったくあなどれないことを悟っていた点、現代人よりも上であるかもしれません。

 「科学信仰」をしている現代人のあやまち日本人がほんらいもっていたイマジネーションや、諧謔精神、そして風刺精神の復活が必要だという気もしてきます。


「鯰絵」にいちばん最初に着目したのはオランダの人類学者


 恵比寿様が瓢箪(ひょうたん)で大ナマズを押さえようとしている、ユーモラな鯰絵です。ヌルヌルとしたヌメリがあるのはウナギだけでなく、ナマズも同じ。恵比寿様でも制御が難しいのが地震なわけですね。

 もともとは「瓢箪鯰」(ひょうたんなまず)というテーマは中国からきたもの。「瓢鯰図」(ひょうねんず)というテーマから来ているようです。

 「鯰絵」をテーマに研究を行い、大冊にまとめあげたのは、オランダの人類学者コルネリウス・アウエハントです。私は、日本語訳の『鯰絵-民俗的想像力の世界-』(コルネリウス・アウエハント、宮田登=解説、小松和彦/中沢新一/飯島良晴/古家信平=共訳、せりな書房、1979)という本を、大学1年か2年のとき、開架式の大学図書館で見つけて、借りて読みました。

 日本民俗学の成果を十分に吸収したうえで、日本人が本格的に手をつけていないテーマを取り扱った本です。400ページ以上もある大冊ですが、実に興味深い内容の本であったことを覚えています。

 帯にはこう書いてあります。すぐれた要約になっています。

「日本文化に潜む<野生の思考>を探る 安政二年の大地震の直後、江戸市中に<鯰絵>とよばれるユーモアと風刺に富んだ版画が流行した。「地震は鯰が引き起こす」という民間信仰の隠れた思考構造を神話、民衆文化、大津絵の中に探ったユニークな日本文化論。」

 参考までに目次を紹介しておきましょう。

口絵(カラー白黒多数)
日本語版への序文-C.アウエハント
まえがき
第一部 鯰絵への招待
 第1章 鯰絵
 第2章 伝説
 第3章 破壊者-救済者としての鯰
第二部 さまざまなテーマ
 第1章 はじめに
 第2章 石と鯰
 第3章 瓢箪鯰
 第4章 テーマの構造
第三部 隠れた意味-むすびにかえて
 第1章 テーマ、シンボル、構造
 第2章 危機的出来事としての地震
付録 スサノオ論覚書
文献目録
解説 宮田登
訳者あとがき
索引 地図

 目次をみればテーマはほぼ出尽くしていると思いますが、今回の大地震の震源地のひとつでもあった茨城県には、鹿島神宮の「要石」(かなめいし)についてはふれておきましょう。

 鹿島神宮の鹿島大明神が、大ナマズの上に石を置いて動けないようにしていると伝承されています。私も数年前に見に行ったことがありますが、思ったよりも小さい自然石で、えらく小さな石だなあと思ったことがあります。

 鹿島神宮で「要石」について知っている人や、実際に見たことのある人は、やはりこの下で大ナマズが暴れたのかあ、という思いを抱いた人も少なくはないと思います。実際に、鹿島神宮じたいも被害を受けているようです。
 
 アウエハントの研究では、ナマズと地震、地震と世直し、世直しとナマズ・・と、江戸時代の日本人のあいだでは連想が拡がっていったことにふれていますが、今回の大震災も、間違いなく「世直し」の機会となることでしょう。

 「危機管理がないという危機」は、とくに震災と津波によって引き起こされた「原発事故」の問題に集中的に現れています。

 「原発事故」問題に限らず、いままで見えなかった本質というか、隠されてきたものが見えてしまった・・・。これが「世直し」のキッカケにならないはずがないからです。


ナマズあれこれ

 ちょっと話題を変えましょう。

 ナマズは英語ではキャットフィシュ(catfish)といいます。いわゆる「ナマズヒゲ」があるから「ネコサカナ」というわけですね。日本人は、ナマズの顔にネコは連想しませんが、英語人の発想も面白いものがあります。

 ヒゲといえば、ナマズヒゲではありませんが、「ヒゲの殿下」ならぬ「ナマズの殿下」といえば秋篠宮様。

 秋篠宮殿下は、天皇家の家学ともいうべき生物学の正当な継承者ですが、かつてはよく「ナマズの殿下」と呼ばれていました。でもこれは昔の話、いまは専門として取り組んでおられるのは、ニワトリがいつどこで「家禽」となったか、です。
 これについては、このブログでもすでに紹介しました。本の紹介 『鶏と人-民族生物学の視点から-』(秋篠宮文仁編著、小学館、2000) 、そしてラオスのことなど


 「昔取った杵柄」というわけでしょうか、秋篠宮殿下は『鯰-魚と文化の多様性-』(滋賀県立琵琶湖博物館編、サンライズ出版、2003)という本の冒頭に収められた鼎談に参加しておられます。シンポジウムで行われた鼎談です。

 同書によれば、日本列島においては、ナマズはもともと西日本にしか生息していなかったらしい。東漸北進したわけですね。これは日本全国に分布する遺跡の発掘品調査から判明いていることです。


食べるとうまいナマズ料理

 私が、ナマズをいちばん最初に食べたのは、いまから10数年前のバンコクですが、タイをはじめとするインドンシア半島では、ナマズは水田とは切っても切れない関係にあり、よく食べられています。私も好きでナマズ料理は好きでよく食べています。

 バンコク市内のスーパーマーケットでも、ナマズはそのままの形で売られています。家庭で調理する人もいるのでしょう。日本と違って、魚の種類の少ないタイでは、ナマズはポピュラーな魚です。

 もちろん、日本でもナマズは食用にされています。関東では埼玉県にはナマズ料理を出す、川魚専門店も多いようです。東京では、町屋に「どじょっこ」というドジョウとナマズ料理専門店があります。 http://www5.ocn.ne.jp/~dojokko/index.htm

 このお店では、唐揚げさまざまなナマズ料理を食べることができます。いつも混んでいるので電話して確認してみてください。


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 ナマズにからめた連想で、つれづれとさまざまな話題にふれてみました。

 「安政の大地震」後の江戸の人たちのように、風刺精神や諧謔精神を発揮するような精神状態には、まだなっていないかもしれませんが、日本人の底力(そこぢから)がどこにあるのかを、過去に振り返ってみることも必要なことだと思う次第です。



PS 鯰絵-民俗的想像力の世界-』(コルネリウス・アウエハント、小松和彦/中沢新一/飯島良晴/古家信平=共訳)が岩波文庫から文庫化されました! この機会にぜひ! (2013年7月12日 記す) ウナギが絶滅危惧で高くなるのならナマズを食べればいいではないか(笑)





<ブログ内関連記事>

本の紹介 『鶏と人-民族生物学の視点から-』(秋篠宮文仁編著、小学館、2000) 、そしてラオスのことなど
・・秋篠宮の研究成果を一般向けに紹介した本の紹介

おもしろ本の紹介 『アフリカにょろり旅』(青山 潤、講談社文庫、2009)-爆笑珍道中、幻のウナギ「ラビアータ」を捕獲せよ!

(2014年11月22日 情報追加)


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