2011年3月28日月曜日

スリーマイル島「原発事故」から 32年のきょう(2011年3月28日)、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010) を読む


 本日(2011年3月28日)は、スリーマイル島「原発事故」(1979年)から22年になります。このことは、『原子炉時限爆弾-大地震におびえる日本列島-』(広瀬隆、ダイヤモンド社、2010)を読んで知りました。

 「レベル5」クラスの大事故が起こる直前、たった12日前に米国で封切られたのが、ジェーン・フォンダとカーク・ダグラス主演の『チャイナ・シンドローム』。The China Syndrome (1979) HD trailerを参照(YouTube 音声に注意!)。

 この映画じたいは、炉心溶融(メルトダウン)によって、地球の反対側の中国まで影響が及ぶという、荒唐無稽な内容も含まれていますが、図らずも予言が実現してしまったことになります。


あの広瀬隆が「(反)原発本」を、なんと昨年の8月(!)に出版していた

 あの広瀬隆が「(反)原発本」を、なんと昨年の8月(!)に出版していたことは、福島の「原発事故」後の3月16日に掲載された「ダイヤモンド・オンライン」の記事をみるまでまったく知りませんでした。

 「破局は避けられるか-福島原発事故の真相」(ジャーナリスト 広瀬隆)|DOL 特別レポート|ダイヤモンド・オンライン 。まだ読んでない人は、絶対に必読の記事です。「原発事故」が「人災」であることを、いち早く日本人に向けて知らしめたものです。本日現在で、twitter のリツイート数で5,000、facebook の「いいね!」が1,000を越えてます。実際に読んだ人はもっと多いでしょう。

 本書の帯には、「危機は刻々迫っている!」とありますが、実際に「原発事故」は起こってしまいました。広瀬隆が想定していた浜岡原発(中部電力)ではありませんでしたが、地震と津波によって「原発事故」が発生するという推論とシナリオはまったく同じです。予見の書であったのです。そして、福島第一原発の事故は収拾のめどさえたっていないまま、放射能をまき散らしている・・・。

 広瀬隆というと、そのむかし『危険な話』を読んだことを思い出します。チェルノブイリ原発事故(1987年)のあと出たベストセラーの「反原発本」ですが、坂本龍一などのアーチストやマスコミ人のあいだで大流行していたと聞きました。

 チェルノブイリ原発事故が起こったとき、すでに社会人となっていた私は「これでもうヨーロッパは終わりか・・」と思ったものです。大学時代、ヨーロッパ中世史を専攻していただけに、よけいにその感が強かったのでしょう。ヨーロッパ人が福島第一の「原発事故」に異常なまでの反応を示したのは理由がなくはありません。

 「東京電力はなぜ東京に原発をつくらないのか?」、広瀬隆のこの発言は、1987年当時は極端な意見のように聞こえなくもなかかったですが、「受益者負担」という点から考えればわからない話ではありません。東京電力がなぜ新潟や福島に原発をつくるのか、東京電力管内の住民は、その意味について考えてみる必要があることは言うまでもありません。

 しかし、広瀬隆というと、今回の「原発事故」が発生するまで、『赤い楯』に代表される、国際経済陰謀もの作家というイメージが定着しているのではないでしょうか。ですから、私も広瀬隆は「原発」について書くのはもうやめてしまったのだと思っていたのです。

 「ダイヤモンド・オンライン」のこの記事は、ですから久々に「真打ち登場!」と私は受け止めました。そして目を通していくにつれ、恐ろしくなってきて・・・。読むと怖いが、現実を受け止めないと・・・。

 この記事で本書の存在を知り、さっそくネット書店に注文し、取り寄せてじっくりと読んでみました。amazon 以外には bk1 などのネット書店入手可能です(・・ただし在庫切れの可能性はあります)。


 中身について深くふれる余裕はないので、「目次」を紹介しておきましょう。

序章 原発震災が日本を襲う
第1章 浜岡原発を揺るがす東海大地震
第2章 地震と地球の基礎知識
第3章 地震列島になぜ原発が林立したか
第4章 原子力発電の断末魔
電力会社へのあとがき

 内容については、みなさんのご判断にまかせます。少なくとも、「参考資料」としてつけておいた、あの大槻教授のような「冷笑」でもって迎える内容ではありません。
 
 少なくとも中学レベルの理科の知識、できれば高校の地学と物理と化学の知識があれば、著書の論理的結論について 100%間違いだ、などとは断言できないと思います。

 「原発事故」にかんして当局の関係者は、「想定外」、「想定外」と連呼していますが、これほど聞き苦しい、無責任なコトバもほかにありません。「想定外」という言い逃れが、この国の無責任体制そのものといっても言い過ぎではないでしょう。

 最初から結論ありきの本だ、という評価が amazonレビューでは一部なされていますが、そもそも本であれ論文であれ、主張すべき点を論述するものですから、これらの評価はピントはずれと言わねばなりません。

 広瀬隆の結論を受け入れるか、受け入れないか。

 たとえ受け入れたくないと思っても、いまとなっては、巨大地震国日本ではどこであろうが、原発が安全でないことは明らかです。

 しかし、いまこの段階で原発をすべて廃炉にしたら、日本のエネルギーの 3割はまかなえなくなるというジレンマ。そうでなくても、東京電力管内では「計画停電」(輪番停電)による不便を、家庭だけでなく産業界全般が被っている状況。

 苦悩に満ちているのは、東電関係者や政府だけでなく、われわれ日本国民自身でもあるのです。引き裂かれるようなジレンマ。二者択一に振り切りやすいドイツとは違います。

 果たして、このジレンマを解決する道はあるのでしょうか? 

 実に悩ましい。実に悩ましい・・・。






著者プロフィール

広瀬隆(ひろせ・たかし)

1943年東京生まれ。早稲田大学卒業後、大手メーカーの技術者を経て執筆活動に入る。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『危険な話』『柩の列島』などで原子力の危険性を訴え続けるとともに、反原発の市民活動を展開。その他の著書に『一本の鎖』『持丸長者』(以上ダイヤモンド社)、『赤い楯』『二酸化炭素温暖化説の崩壊』(以上集英社)、『世界金融戦争』『世界石油戦争』(以上NHK出版)など多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



P.S. 浜岡原発の運転停止要請が首相によって中部電力に対して行われた(2011年5月6日)

 本日(2011年5月6日)、菅直人総理大臣が、中部電力に対して、浜岡原発の全原子炉について運転停止要請を行ったと報道されている。第一号炉と第二号炉はすでに廃炉は決定済み、第三号炉は現在点検のため停止中であるので、あらたに運転停止となるのは、現在稼働中の第四号炉と第五号炉となる。

 理由は、今後30年以内に 87%の確率で発生するマグニチュード 8程度東海大地震に対して、想定される震源域のまんなかに浜岡原発が立地しており、防潮対策を含めて、災害に対する防備が不十分であるため。対策が行われるまで運転停止が要請される。

 現時点では、いかなる(政治的)背景があったのか真相については明らかになていないが、大きな政治的決断であるkとは間違いないので、この意志決定については評価すべきであろう。

 ただし、あくまでも「運転停止」であって、「廃炉」ではない。今後の推移を監視していく必要がある。(2011年5月6日 記す)



<関連サイト>

「破局は避けられるか-福島原発事故の真相」(ジャーナリスト 広瀬隆)|DOL 特別レポート|ダイヤモンド・オンライン (2011年3月16日)

放射能汚染列島ニッポン、本当の恐怖はこれから-福島とともに心配な浜岡原発、今後も事故が相次ぐ危険性(広瀬隆、JBプレス、3月25日)

広瀬隆/広河隆一「福島原発現地報告と『原発震災』の真実」(2011年3月23日) ・・2時間と長いが、このビデオは値千金。ただし、内容は自分のアタマで判断を


原子力保安院の大罪-1 / 武田邦彦 中部大学教授(2011年3月21日)  
・・原発事故は「人災」である。原発推進派だが環境問題にもの申す、異端の科学者・武田邦彦(中部大学教授)の直言。関西ローカルの、やしきたかじんの番組「増刊!たかじんのそこまで言って委員会」。

武田邦彦教授より<原発緊急提言01 >「水素爆発」 2011.3.14
武田邦彦教授のウェブサイトに原発関連の「緊急情報」がアップされている

東日本巨大地震 福島原発半径20km以内の住民に避難指示(2011年3月14日) (大前研一ライブ)
福島第一原発 現状と今後とるべき対応策 (大前研一ライブ580)(2011年3月27日) 
地震発生から1週間 福島原発事故の現状と今後(大前研一ライブ579)(2011年3月19日)
・・さすがMITで原子力工学で博士号をとって、日立製作所の原子力エンジニアとして「もんじゅ」の設計にもかかわていた大前研一の解説は説得力がある

The China Syndrome (1979) HD trailer
・・ナレーションで「原発事故」が「人災」にほかならないことを語っています


<参考資料>


2010年11月30日 (火)
【原発は時限爆弾?】
 

http://ohtsuki-yoshihiko.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-7d81.html

読者の方から、下記のメールをいただきました。

▼読者の方からのメール
(このメールは、11月16日にいただきました。)
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Subject: 広瀬隆「原子炉時限爆弾」

大槻様

本日発売『週刊朝日』の新聞広告で広瀬隆の名前が目に付いたので、図書館で一通り読んでみました。
地震多発地帯に建っている浜岡原発で原発事故が起きれば、それこそ人的・環境被害に止まらず日本経済まで大打撃という意見と理解したのですが、この広瀬氏の主張を如何お考えでしょうか?
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▼大槻からの回答
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大地震のとき原発は暴走して、原子爆弾の爆発となって大惨事をもたらす、という本ですね。
本当かどうか、私には分かりません。手元にスーパーコンピューターもなければ、原発炉心のソフトもないからです。

それにしてもこの本の作者、広瀬隆という人は何者なのでしょうか。
このような結論は、放射線物理の専門家である私でもまったく分からないのに、この人は『本を書けるほど』分かっているのです。多分、東大や京大の原子力工学、原子核工学関連の学科の大学院博士課程を卒業、その後専門の原子炉設計のシミュレーションをやっている人かしら?
そうでなければ、こんな本は書けないからです。

さて、本当は広瀬隆とは何者なのでしょうか?
噂ではどこぞの大学(?)の理工応用化学出身、しかも原子力工学大学院とは無縁らしいのです。これは驚きですね。

まったくの素人が携帯電話の電磁波の強度と人体、とくに生殖細胞への悪影響をシミュレーションして警告した、という笑い話を思い出しました。
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2010年11月30日 (火)

*大槻教授も影響力のある人ですから、自分の発言には責任をもって行っているはずなので、削除される可能性は小さいとは思いますが、念のために全文を再録しておきます。オカルト・バスターの大槻教授の発言、一字一句訂正していません。本のタイトルなど出版社が売るためにつけたのに過ぎないのに。みなさんはこれを読んでどう思いますか?


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