2011年5月16日月曜日

「目には青葉 山ほととぎず 初かつを」 ー 五感をフルに満足させる旬のアイテムが列挙された一句


 
目には青葉 山ほととぎず 初かつを(山口素堂)

 いまの季節にピッタリの俳句。作者の山口素堂(やまぐち・そどう 1642年~1716年)は、江戸時代前期の俳人・治水家だそうだ。松尾芭蕉の同時代人である。
 
 江戸時代前期には、すでに初鰹(はつがつを)が旬の食材として話題に上っていたことがわかる。

 この俳句は、ただたんに季節ものを並べただけなのだが、ビジュアルなイメージが浮かんでくるだけでなく、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚の五感すべてを満足させてくれるものになっているのが面白い。

 まずは青葉。青葉とは新緑のこと。目にまぶしい青葉で、太陽光とともに視覚が刺激される。

 ホトトギスが鳴いているのが聞こえる。聴覚の刺激。耳に聞こえてくるホトトギスの鳴き声で、姿は見えぬがココロのなかで視覚イメージとして再現する。ホトトギスの鳴き声は、YouTube で聞いてみるとよい。

 初鰹(はつがつを。これはいうまでもなく味覚。そして舌触りという触覚目で見て楽しむ赤身。現代なら、冷やしたビールでクイっと一杯といったところか。

 それにしても、初かつを、これはちょっと値段は高いが、じつに旨い。
 
 そういえば、たしか、徒然草にも「かつを」がでてきたという記憶がある。

第百十九段

 鎌倉の海に、かつをと云ふ魚は、彼(か)のさかひには雙(さう)なきものにて、此(こ)の比もてなすものなり。それも、鎌倉の年寄の申し侍(はべ)りしは、「此の魚、己等若かりし世までは、はかばかしき人の前へ出づること侍らざりき。頭は下部も食はず、切りて捨て侍りしものなり」と申しき。
 かやうの物も、世の末になれば、上ざままでも入りたつわざにこそ侍(はべ)れ。
(*太字ゴチックは引用者=私)
(出典)Japanese Text Initiative 所収の「徒然草」(Tsurezuregusa)
Japanese Text Initiative は、バージニア大学図書館エレクトロニック・テキスト・センターとピッツバーグ大学東アジア図書館が行っている共同事業。

 鰹(かつを)は、すでに鎌倉時代には食べられていたということがわかるエビデンスのひとつである。

 いちおう現代語訳をつけておこう。文学者の佐藤春夫訳による。

 鎌倉の海で、鰹(かつを)という魚は、あの辺では無上のものとして近来は賞美されている。これも鎌倉の老人が話したのだが、「この魚は自分らの若年の時代までは相当な人の前には出なかったものである。頭(かしら)は、下男ですら食べず、切って捨てていたものである」ということであった。このようなものでも世が末になると上流へもはいりこむものである。
(出典:『現代語訳 徒然草』(吉田兼好作、佐藤春夫訳、河出文庫、2004、原版1976)

 吉田兼好がこの話を聞いてからすでに、800年近くもたった現在は、世の末の末の末・・・か? それでも日本人は生きているわけだ。

 ところで、冒頭に掲載した「桜の若葉」、これもまた目で楽しむだけでなく、食用にもなる edible leaves である。塩漬けにして道明寺を包むのに使う。柏餅の柏の葉っぱは包むだけだが、道明寺を包む桜の若葉はそのまま食べることができるわけだ。

 そういえば、このブログでも、以前に「味噌で酒を飲む話」を書いたのだったなあ。

 どうも、食べものの話に終始してしまいがちなわたしである(笑)。また、そういう話ばかり「アタマの引き出し」のなかにあるというのもまた、「好きこそものの上手なれ」ということか?



<ブログ内関連記事>

味噌を肴に酒を飲む
・・『徒然草』第二百二十五段にでてくる話

大震災のあと余震がつづくいま 『方丈記』 を読むことの意味

『伊勢物語』を21世紀に読む意味

「桜餅のような八重桜」-この表現にピンとくるあなたは関西人!
・・塩漬けにした桜の葉っぱで餅を包んだ道明寺

(2014年6月18日 情報追加)


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