「選択」と書いて「せんちゃく」と読む。これは浄土宗の読み方である。
この『選択の人 法然上人』というマンガは、高校生二年生の男子が、「先人の生き方に学ぶ」を400字で10枚書いてくることという夏休みの宿題のテーマに、法然上人を「選択」したことからはじまるという筋立てだ。
大学受験を前に進路の「選択」を迫られる20世紀末の高校二年生男子と、12世紀から13世紀の「末法の世」に生きて「南無阿弥陀仏」を「選択」した法然上人の生涯がパラレルに進行するという構成になっている。ハリウッド映画の『リトルブッダ』とよく似た構成である。
キーワードは、随所にでてくる「選択」。高校二年生男子の「選択」と法然上人の「選択」。よくできた構成のマンガだと思う。
法然上人の主著である『選択本願念仏集』(せんちゃく・ほんがん・ねんぶつしゅう)八百年記念として、1998年(平成10年)に浄土宗から企画出版されたものという。
監修は大正大学教授の浄土宗学僧、編集は浄土宗宗門学校校長会ということで、オーソドックスな見解から逸脱することのない内容であるといえよう。
とはいえ、横山まさみちの絵はどうしても、「オットセイ」を思い出してしまう。とくに主人公の高校二年生男子の同級生の女性生徒の顔が・・(笑) 「オットセイ」が何を意味するのかは、中高年男性諸氏は含み笑いで対応いただきたく。
たまたま浄土宗のウェブサイトを見ていたら、出版目録があってこの本を発見した。だが、たいへん残念なことに「販売終了」とある。ネット古書店でようやくみつけて注文し、入手して一読したという次第だ。
せっかくだから、「法然上人八百回忌」の今年2011年に復刊すればいいのに。「あの横山まさみちのマンガで法然を学ぼう!」とかキャッチコピーをつけて。今年2011年の10月25日から国立博物館で開催されている「法然と親鸞-ゆかりの名宝」のミュ-ジアムショップで販売すればいいのに。大きな教団というのは、機を見るに敏ではないなあ、図体がでかすぎるのかねえ、と思ってしまう。
ところで、このマンガに『徒然草』の一節が紹介されていた。念仏にかんして法然上人が質問されたときの回答である。
第三十九段
或人、法然上人に、「念佛の時、睡におかされて行をおこたり侍る事、いかゞして此のさはりをやめ侍らん」と申しければ、「目のさめたらんほど念佛し給へ」とこたへられたりける、いとたふとかりけり。又、「往生は、一定と思へば一定、不定と思へば不定なり」といはれけり。これもたふとし。又、「うたがひながらも念佛すれば往生す」ともいはれけり。これも又たふとし。
(*太字ゴチックは引用者=私)
(出典)Japanese Text Initiative 所収の「徒然草」(Tsurezuregusa)
Japanese Text Initiative は、バージニア大学図書館エレクトロニック・テキスト・センターとピッツバーグ大学東アジア図書館が行っている共同事業。
いちおう現代語訳をつけておこう。作家の佐藤春夫(1892~1964年)によるもの。先日はじめて知ったのだが、和歌山県の新宮出身の佐藤春夫は、じつは法然上人をたいへん尊敬しており、その伝記小説まで執筆していたのであった。
ある人が、法然上人に、「念仏の時に眠くなってしまって行ができませんが、どうしてこの障害を防いだらよろしゅうございましょうか」と言うと、「目が覚めたら念仏をなさい」と答えられた。じつに尊かった。
また、往生は確実なものと思えば確実、不確かと思えば不確かであるとも仰せられた。これも尊い。また疑いながらでも、念仏をすれば往生するとも仰せられた。これも尊い。
(出典:『現代語訳 徒然草』(吉田兼好作、佐藤春夫訳、河出文庫、2004、原版1976)P.48~49
佐藤春夫が法然上人好きだと公言していたのは、こんなエピソードを知っていたのもその理由の一つだろう。厳格主義とは無縁の人であった法然上人は、じつに人間的ですばらしい。こんなエピソードを知ると、やたらジョークを飛ばして笑いをさそうダライラマ法王を思い浮かべてしまう。
ところで、なぜ横山まさみち氏にマンガを書いてもらうことに白羽の矢がたったのか、この本には何も書いてないからわからない。浄土宗サイドの依頼者がスポーツ紙に連載されていた『やる気満々』を読んでいたのだろうか? それとも、横山まさみち氏は浄土宗だったのだろうか?
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味噌を肴に酒を飲む
・・『徒然草』第二百十五段。佐藤春夫の現代語訳をつけておいた
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