2011年11月29日火曜日

書評 『国債・非常事態宣言-「3年以内の暴落」へのカウントダウン-』(松田千恵子、朝日新書、2011)-最悪の事態はアタマのなかでシミュレーションしておく


「国債」を「国家債務」の略だと考えると問題がクリアになってくる

 タイトルは『国債・非常事態宣言-「3年以内の暴落」へのカウントダウン-』とやや煽り系ですが、タイトルをつけるのは著者ではなく編集者に主導権があり、最終的には売る立場の出版社が決めるものですから、それは割り引いてとらえておきましょう。

 内容は、いたってまっとうな経済と財政にかんする一般書です。やさしい語り口は、とくに経済については詳しくない女性向けといえるかもしれません。

 金融や経済につよくない人は、第1章から順番に読み進めるといでしょう。ある程度まで「国債問題」の意味がわかっている人は、ぜひ第3章を読んでいただきたいと思います。

 「国債」とは国家が発行する公債のことですが、著者が言うように「国家債務」の略と考えると問題がクリアになってくるかもしれません。国家からみれば債務、国債の購入者からみれば債権であり債券です。債務と債権は、同じものを別の角度からみたものに過ぎません。当然のことながら、一方にとっての債務は、他方にとっての債権となり、金額的にバランスされるものです。

 国債を直接に所有していない人でも、預金や保険や年金をつうじて間接的に保有者になっているのです。ですから、国債の問題は、ほぼすべての日本国民にとって無縁の存在ではありません

 日本国債は9割以上が日本国民が所有しているのだから、欧州とは状況がまったく異なるとよく言われていますが、たしかにそれには一理あります。

 とはいえ、おなじ状況であった第二次大戦末期の日本では、結局は敗戦によって国家財政が破綻し、戦費調達のために国民に買わせた戦時国債がハイパーインフレのために価値を失い、紙くずと化したという著者の指摘は忘れてはいけないでしょう。

 「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」というじゃありませんか。比較的短いスパンの経験だけで物事を語る専門家がいかに当てにならないかについては、つい最近も「3-11」の大地震と大津波でいやというほど味わったばかりですよね。

 「最悪の事態」は起こらないに越したことはありませんが、それでも「最悪の事態」がどんなものであるかはアタマのなかでシミュレーションだけはしておきたいものです。

 それにはまずは歴史に学ぶことですね。敗戦後の昭和21年(1946年)2月17日におこなわれた「預金封鎖」と「新円切り替え」は歴史的「事実」です。

 当時の大蔵省は現在では財務省と名前は変えましたが、組織体としては継続したものであることを考えれば、財務省が「最悪のシナリオ」として想定していても不思議ではありません。たとえそれがラストリゾートであるにしても。

 いたづらに不安を感じて悲観論に陥ったり、根拠のない楽観論に安住することなく、自分の身は自分で守るのは絶対不可欠です。非常事態の際には「お上」が守ってくれないことは、すでに数々の有事の際にいやというほど見ているではありませんか。

 自分、そして友人家族、これが同心円状に拡がっていく「つながり」をつうじて生きぬくこと、この覚悟と準備を日本国民の一人一人がもつべきなのです。

 「国債・非常事態宣言」や「暴落へのカウントダウン」が、政府によって公式になされることなど絶対にありえません。だからこそ、それは自分のアタマとココロのなかでしなければならないのです。

 あえて口にはしなくても、ひそかに覚悟と準備を始めることが、いざというときにあなたとあたなにつながる人たちを守ることになるのです。 

 希望的観測ではなく、覚悟と勇気をもって生きぬかなければなりません。





目 次

はじめに
第1章 国債と格付けの正しい関係-借金だらけの日本の国債が、なぜダブルAなのか?
 Ⅰ. 国債の何が問題なのか
 Ⅱ. 日本国債は大丈夫なのか
 Ⅲ. 債務の見方をわかっていますか
第2章 国債暴落のシナリオ-足りない資金、これから国債はどうなるのか?
 Ⅰ. 格付け会社の最近の動き
 Ⅱ. 今そこにある危機
 Ⅲ. 先送りが状況を悪化させる
第3章 国債暴落後の日本経済-やはり、ハイパーインフレがやってくるのか?
 Ⅰ. 最も悪いシナリオは何か
 Ⅱ. 本質的には何が問題なのか
 Ⅲ. X-Day に向けてどう備えるか

 Ⅳ. 次世代に向けた成長のために
参考文献


著者プロフィール

松田千恵子(まつだ・ちえこ)

首都大学東京大学院教授(経営学)。東京外国語大学外国語学部卒、仏国立ポンゼ・ショセ国際経営大学院経営学修士。日本長期信用銀行、ムーディーズジャパン格付けアナリストを経て、国内外戦略コンサルティング会社のパートナーを歴任、戦略・財務アドバイザリーであるマトリックス株式会社を設立、運営。2011年より現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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(2014年8月14日 情報追加)





(2012年7月3日発売の拙著です)







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