2012年3月15日木曜日

三年ぶりの別所温泉-"信州の鎌倉" は騒々しさとは無縁の温泉郷


3月10日(日)から二泊三日で別所温泉(べっしょ・おんせん)で過ごしてきた。

約3年ぶりの別所温泉である。通算で何回目だろうか? すくなくとも6回以上は来ているはずだ。退職や転職など人生の節目の出来事があるたびに温泉にきて心身を癒すのがならわしになっている。

別所温泉は、上越新幹線上田駅から上田電鉄別所線で西へ30分。信州の山並みを見ながら、塩田平を走る別所線の終点・別所温泉駅で下車すればもうそこは温泉街である。ラグビー合宿やスキーで有名な "日本のダヴォス" 菅平(すがだいら)高原とは反対方向になる。

別所温泉は温泉街だが、熱海のような歓楽街はいっさいない。静かで落ち着いた「温泉郷」といったほうがより正確だろう。信州の穀倉地帯である塩田平(しおだだいら)の西端にある。温泉郷は平野が山に変わっていく風景のなかにある。

別所温泉がうれしいのは源泉掛け流しという点だ。温度調整はしているが、追い炊きすることなく、源泉をそのまま惜しみなく掛け流しているから新鮮で清潔なのである。

別所温泉の泉質は単純硫黄泉である。ゆでたまごのような硫黄の匂いがすこしする温泉水はそのままひしゃくで飲むことができる。



共同浴場には、大師湯と石湯があり、じつにひさびさに「石湯」につかってみた(写真)。真田幸村の「隠し湯」らしいが真偽のほどはわたしにはわからない。地元の老人が入れ替わり立ち替わりつかりにくる。湯船のなかには大きな石があり、それが名前の由来になっているようだ。入湯料は150円。

わたしの定宿は上松屋だが、お湯の入れ替え時間中は入湯できないので、二泊目のために共同浴場の利用券をもらったので石湯に入ったという次第。粉雪が吹き付けてくる寒い日だったので、風呂から出たあとがかなり寒かったのだが。

美人の湯として知られているとおり、お肌がつるつるすべすべになるのは、この温泉の効能のなかでも特筆すべきことだろう。「温泉、水なめらかにして凝脂をあらう」というのは、高校の漢文で習った『長恨歌』(白居易)で描写された楊貴妃の姿だが、まさにそのものである。温泉の効能は、慢性皮膚病、慢性婦人病、きりきず、糖尿病などに効くといわれている。



別所温泉といえば、厄除けで北向観音がある(写真)。わたしも前厄と後厄それぞれ訪れて、無事に厄年をやり過ごすことができた。別所温泉のお土産は、「厄除けまんじゅう」がある(いちばん下の写真)。

温泉地だけに、北向観音の手水はなんと温泉である! しかも、ひしゃくで温泉水を飲むこともできる。境内には、「愛染かつら」のモデルとなった桂(かつら)の木がある。

善光寺が南向きに建てられていることはご存じだろうか?これは別所温泉の北向観音の存在を知ると意味をもってくる。善光寺は南向きで来世の幸せを、北向観音は北向きで現世の幸せを祈る。こういう形でこの二つは対になっており、片方だけでは片詣りになってしまうという。wikipedia に以下の記述がある。

北向観音という名称は堂が北向きに建つことに由来する。これは「北斗七星が世界の依怙(よりどころ)となるように我も又一切衆生のために常に依怙となって済度をなさん」という観音の誓願によるものといわれている。 また、善光寺が来世の利益、北向観音が現世の利益をもたらすということで善光寺のみの参拝では「片参り」になってしまうと言われる。 

別所温泉が "信州の鎌倉" と呼ばれるのは、この地が鎌倉時代に北條氏の領地だったことによる。国宝の八角三重塔のある安楽寺は禅寺で、初代の住職は宋から渡来した中国人の禅僧であるという。



この安楽寺も、別所温泉に来た際はかならず散歩コースにいれて訪れているので、何度も来ているのだが、そのたびに美しい塔だと感心している。五重塔は日本には多いが、八角三重塔(写真)はきわめてめずらしいという。いっけん四重に見えるが、いちばん下は裳階(もこし)なので三重塔なのだとか。塔の内部には大日如来が安置されているらしいが、なぜ禅寺に大日如来があるのかはミステリーである。

今回の別所温泉滞在の最終日、3月13日(火)の早朝6時半、東日本大震災・栄村 復興祈願護摩に参加した。宿泊先の上松屋の社長さんんが引率しての無料イベントである。場所は、北向観音の不動堂である。天台宗でも不動明王の護摩行がある。

たまたま、2012年3月12日は栄村の大地震から一年目にあたっていたのである。「3-11」の翌日に発生した大地震の被害であることは忘れがちあり、たまたまではあったが、早朝の護摩行に参加することができたのは幸いであった。僧侶が4人もでてくるのはそうとう気合いが入っているというのは、チェックアウトの際に社長さんから聞いた話である。



護摩に参加していて思ったのは、日本中の真言宗や天台宗のお寺で一日に一回は護摩が焚かれると仮定したら、いったいぜんたい日本でどれだけの数の護摩が焚かれることになるのだろうかということだ。

そのときアタマに浮かんだのは「鎮護国家」というフレーズ。

「3-11」の大災害で、日本=日本人=日本の国土という意識が目覚めつつあるような気がしている。それが、排外的なナショナリズムにさえならなければ、「鎮護国家」で護摩が焚かれるのはウェルカムというべきだろう。

調べると、真言宗の寺院だけでも日本全体で一万以上はある。これに天台宗の寺院をあわせれば、一日に焚かれる護摩はそうとうな量になるわけだ。

不動明王の真言が繰り返し唱えられているのを聴きながら、日本はこのおかげで守られているのかもしれないという気持ちがわき起こってくるのをおぼえたのである。これもまた日本を日本たらしめている重要な要素である。




信州の塩田平(しおだだいら)には独鈷(とっこ)山という、標高 1,222m のキザギザな形をした山がある。写真は、上田電鉄別所線の車内から撮影したものだが、一説によれば、弘法大師がこの地で修行して、密教法具の独鈷(とっこ)を埋めたのでこの名がついたのだとか。たしかに、山のかたちが独鈷(とっこ)によく似ている。

このように、別所温泉はなんど来ても、そのたびにあらたな発見のある温泉郷だ。つぎにおとづれるのがいつになるかわからないが、東京からも近く、しかも落ち着いた雰囲気の温泉郷はじつに貴重な存在である。しかも塩田平という信州でも有数の穀倉にあり、山の幸も豊富で旅館でだされる料理もじつに旨い。

火山国日本は地震多発国でもあるが、一方ではいたるところに温泉がわき出ている豊かな国でもある。火山国のデメリットを嘆くだけでなく、生きて現世にいる人間は温泉というメリットも大いに味わいたいものだ。

南向きの善光寺では来世を想い、北向の北向観音では現世利益をいただく。この世に存在するものはすべて対になっているのである。メリットとデメリットもまたコインの両面のようなものだ。

機会があれば別所温泉は、ぜひ一度は訪れてほしい。





<関連サイト>

別所温泉観光協会 (公式サイト)

別所温泉 上松屋旅館 (公式サイト)

北向観音堂(上田市デジタルアーカイブ)

天台宗別格本山 常楽寺(上田市デジタルアーカイブ)



<ブログ内関連記事>

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成田山新勝寺「断食参籠(さんろう)修行」(三泊四日)体験記 (総目次)

不動明王の「七誓願」(成田山新勝寺)-「自助努力と助け合いの精神」 がそこにある!

『崩れ』(幸田文、講談社文庫、1994 単行本初版 1991)-われわれは崩れやすい火山列島に住んでいる住民なのだ!






(2012年7月3日発売の拙著です)






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