日本の冬はレンコンが出回る季節だ。根っこを食べる根菜である。煮てもよし、てんぷらで揚げるのもよし。冬の日本料理にレンコンは欠かせない。
なによりもレンコンは断面が面白い。穴の開き方が面白いのだ。
だが、これだけ身近な野菜でありながら、レンコンがどんな状態で栽培されているか見た人は、栽培産地に住んでいる人や、じっさいに栽培している農家くらいしかいないのではないだろうか。
わたしの場合は、地下鉄東西線の沿線に住んでいたこともあって、その昔、
市川市の海岸沿いに近い原木中山駅周辺に広がっているレンコン畑の収穫風景を電車のなかから何度も眺めたことがある。東西線は地下鉄だがそこは地上部分となっている。いまは宅地開発が進んで、レンコン畑を見ることはもはやない。
現在ではレンコンといえば、関東地方では茨城産が中心だ。
(東京・上野公園の不忍池にて冬枯れのハス 筆者撮影)
蓮根(はすね)と書いてレンコンと読む。そう、
レンコンはハスの根っこなのである。地下茎なのである。
泥土に咲く美しい花がハスの花だが、その泥土のなかではハスの根っこが育っているというわけなのだ。そしてハスが枯れた冬になると、栽培農家が泥土につかりながら根っこを掘り起こして収穫するのである。
ハスネと読むか、レンコンと読むか、これは
銀杏と書いてイチョウと読むか、食用のギンナンと読むかに似ている。ちなみに、都営地下鉄の三田線には蓮根(はすね)という駅もある。
東京上野の上野公園に隣接した不忍池(しのばずいけ)は、ハスの名所でもある。レンコン畑がどんなものかを知りたい人は、不忍池を訪れてみたらいいだろう。東京都心最大のレンコン畑(?)であるのだが、レンコンの収穫が行われるのかどうかは知らない。
(東京・上野公園の不忍池にて冬枯れのハス 筆者撮影)
東南アジアの上座仏教圏でも、ハスの花はポピュラーだ。ただし色は白が中心。
仏教と蓮花(れんげ)が密接な関係にあるのは、仏教の生態系にハスが生育しているからだろう。仏像は蓮の花の上に座禅のポーズで座っている。『法華経』の正式名称は『妙法蓮華経』である。英語では Lotus Sutra (ロータス・スートラ)という。
東南アジアでは、なぜかレンコンは食べたことがないが、日本料理の普及によって食べる人が増えるかもしれない。ダイコン、ニンジン、ゴボウにレンコン。考えてみると、
日本人ほど根菜を食べる民族は、あまりないのかもしれない。
(日本ではポピュラーな薄紫色の蓮の花)
蓮の花と書いてレンゲと読む。中華料理で使うレンゲと蓮の花の関係についてはわからない。発音が同じだけか。
中国では蓮の実のタネからとったデンプンを生食している。一度だけ猛暑の7月の杭州(浙江省)で食べてみたことがあるが、どうも食べなれていないものであるためか、甘ったるいだけで、あまりうまいとは感じなかった。そういえば、
蓮の実は蜂の巣のような形状なので、ハチスからハスになったという語源説を思い出した。
レンコンを食用にしているのは日本と中国南部だけというが、
地理的な近さから食用のレンコンは中国南部の文化なのかもしれない。一説によれば、
モヤシやインゲンマメ(隠元豆)などとともに日本に禅仏教の黄檗宗を伝えた福建省出身の隠元禅師が1654年渡来の際にもたらしたものだという。ただし、日本人は蓮の実は食べないので、その説の真偽は不明である。
(中国の杭州にて ストリートで売られている蓮の実 筆者撮影)
蓮根(はすね)と書いてレンコンと読む。蓮花(はすのはな)と書いてレンゲと読む。訓読みと音読みで、ずいぶんと実体もイメージが変わるものだなと、あらためて感じる次第。
PS
ハスの茎や葉の繊維から糸をつくり織物を織る、ということを失念していた。「蓮の糸」は、僧侶の袈裟(けさ)を折るのに使われていたのだ。これは日本だけでなく、東南アジアでも同様である。 (2016年3月7日 記す)
PS2
不忍池(しのばずいけ)の蓮について
本来なら都心では最大のレンコン生育地帯であるはずだが、レンコンが収穫されることがないのは不忍池の水質が悪いためだという話を聞いた。収穫されることがないため、枯れた茎と地下茎が春になると腐敗し悪臭を放つのだが、そのまま放置されているのである。(2016年4月17日 記す)
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