『全国マン・チン分布考』(松本修、集英社インターナショナル新書、2018)を読んだ。新書の新刊だ。この本はじつにすばらしい! 著者会心の一作であろう。読者もまた、ある種の暖かい感動を覚えるに違いない。(*この文章を書いたのは10月だが、多忙のためブログへのアップが大幅に遅れた)。
扱っているテーマは、タイトル通りだ。日本語の女性器と男性器の名称が、日本全国でどのように分布しているかを徹底調査し、言語地理学の「方言周圏説」にもとづいた分析を加えることで、そのほぼすべてが、かつては文化の発信源であった京都から生まれた新語であったことを人文科学として立証したものだ。日本の言語学者や民俗学者が避けて通ってきたテーマに、あえて正面から向き合った自信作であり、画期的な内容である。
著者は、「探偵ナイトスクープ」の元プロデューサーで、ベストセラー『全国アホ・バカ分布考』(新潮文庫、1996)の著者でもある。ずいぶん昔に文庫化された際に読んだが、それはもう、かなり分厚いがじつに面白い本だった。今回の本は、その著者による総決算ともいえるような内容だ。おそらく、著者にしても、もうこれ以上の作品を書くことはできないのではないだろうか。
いっけんキワモノめいたタイトルだが、全編にあふれているのは、日本語とそれを担ってきた日本人への深い愛。日本人なら誰でもわかるはずの「愛(いと)おしい」という感情が、直接的に間接的に伝わってくる。
ああ、この本はほんとに読んでよかった。そういう気持ちになる本はめったにない。みなさんにも、ぜひおすすめしたい。
目 次
第1章 東京での「おまん」の衝撃
第2章 「虎屋」の饅頭へのあこがれ
第3章 「チャンベ」「オメコ」らの愛すべき素性
第4章 女性の心に生きる「オソソ」
第5章 琉球に旅した『古事記』の言葉
第6章 「チンポ」にたどり着くまで
第7章 「マラ」と南方熊楠
第8章 女陰語の将来
第9章 今までの「おまんこ」研究
第10章「まん」を生きる人生
著者プロフィール
松本修(まつもと・おさむ)
TVプロデューサー。1949年、滋賀県生まれ。京都大学法学部卒業後、朝日放送入社。『ラブアタック!』(75年)、『探偵!ナイトスクープ』(88年)など数々のヒットテレビ番組を企画・演出・制作。大阪芸術大学で教授を、関西大学・甲南大学・京都精華大学などで講師を務めた。 著書に『全国アホ・バカ分布考』『どんくさいおかんがキレるみたいな。』(共に新潮文庫)、『探偵!ナイトスクープ アホの遺伝子』(ポプラ文庫)ほか。
<ブログ内関連記事>
書評 『お馬ひんひん-語源を探る愉しみ-』(亀井孝、小出昌洋=編、朝日選書、1998)-日本語の単語を音韻をもとに歴史的にさかのぼる
書評 『漢字が日本語をほろぼす』(田中克彦、角川SSC新書、2011)-異端の社会言語学者・田中克彦の「最初で最後の日本語論」
梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (1) -くもん選書からでた「日本語論三部作」(1987~88)は、『知的生産の技術』(1969)第7章とあわせて読んでみよう!
梅棹忠夫の「日本語論」をよむ (2) - 『日本語の将来-ローマ字表記で国際化を-』(NHKブックス、2004)
3つの言語で偶然に一致する単語を発見した、という話
書評 『ことばの哲学 関口存男のこと』(池内紀、青土社、2010)-言語哲学の迷路に踏み込んでしまったドイツ語文法学者
書評 『漢文法基礎-本当にわかる漢文入門-』(二畳庵主人(=加地伸行)、講談社学術文庫、2010)
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end