2019年6月20日木曜日

書評『デカルトの憂鬱 ー マイナスの感情を確実に乗り越える方法』(津崎良典、扶桑社、2018)ー デカルト哲学の入門書であり、デカルトを使った自己啓発書でもある


デカルトの憂鬱-マイナスの感情を確実に乗り越える方法-』(津崎良典、扶桑社、2018)という本が面白い。

著者の意図は、デカルト研究者による「デカルト哲学の入門書」なのだが、読者の立場からみたら「デカルトを使った自己啓発書」でもある。副題にそれが表現されている。むしろ後者を前面に出したほうがいいのではないだろうか?

まずは、カバー装画のイラストが、ぜんぜん哲学書っぽくなくていい。

哲学の本というと、洋の東西を問わず、ヒゲづらのオッサンの肖像画が登場するのが定番だ。だが、この本のカバーは、なぜこれがデカルト哲学なのかよくわからないようなカラフルで幻想的なイラストで、ついつい手にとってしまう。



しかも、デカルト哲学の入門書の執筆依頼を受けてから、2年間かかって考え抜いたという構成が、じつにすばらしい全体で21章で構成されているが、「憂鬱というマイナスの感情を確実に乗り越える方法」を、それぞれ動詞で分類している。

「目次」でそれを示しておこう。
 
1 デカルトは いつも「方法に従う」
2 デカルトは ときどき「誤る」
3 デカルトは 冷静に「驚く」
4 デカルトは 意外と「休む」
5 デカルトは 想像力で「癒す」
6 デカルトは いつか「死ぬ」
7 デカルトは 自分のなかを「旅する」
8 デカルトは ミツバチのように「本を読む」
9 デカルトは まず「疑う」
10 デカルトは たっぷりと「自分の能力を使いきる」
11 デカルトは 魂を耕すために「学ぶ」
12 デカルトは 検証して「愛する」
13 デカルトは あえて「動物を無視する」
14 デカルトは 少しずつ「慰める」
15 デカルトは 穏やかに「暮らす」
16 デカルトは 明晰かつ判明に「認識する」
17 デカルトは 遠大に「準備する」
18 デカルトは できる限り「助け合う」
19 デカルトは しみじみと「感情を味わう」
20 デカルトは 謙虚に「神と格闘する」
21 デカルトは 三叉路で「迷う」

『デカルトの憂鬱』は、デカルト最初の著作『方法序説』や最後の著作『情念論』、王女エリザベトからの質問に答えた書簡その他の著作や書簡から、デカルトの生涯と彼が生き抜いた時代を振り返りつつ、中世・ルネサンス世界が崩壊して近代に移行する「移行期」という激動期に生きたデカルトの思想をわかりやすく解説してくれる「デカルト哲学入門書」である。

と同時に、21世紀に生きる迷える現代人への指針を引き出している「自己啓発書」である。そういう読み方のほうがいいかもしれない。17世紀に生きたデカルトの時代は「新ストア派」の時代であり、デカルトもまた「時代の子」であった。生き方という点にかんしては、デカルトはストア派哲学に限りなく近いのである。

「哲学はほんとうは役に立つ!」ということを示す試みでもある。具体的なアドバイスに充ち満ちたこの本は、読んで損はない本だと思う。いや、読むに値する「自己啓発書」だ。






著者プロフィール 
津崎良典(つざき・よしのり) 
1977年生まれ。国際基督教大学(ICU)教養学部人文科学科卒業。大阪大学大学院文学研究科修士課程修了。パリ第一大学パンテオン=ソルボンヌ校哲学科博士課程修了、哲学博士号を取得。現在、筑波大学人文社会系准教授。 授業には、文系諸分野はもちろん、数学、化学、そして生物学などの理系諸分野を専攻する学生までもが「ご常連」として出席。白熱のあまり高速で進められる授業は、メモすることさえ困難で、学生はスマートフォンを机のうえにおいて録音しつつ受講。その熱量が本書のうちに一気に流れ込んだ! 共訳書に『デカルト全書簡集』第4巻(知泉書館、2016年)、『ライプニッツ著作集』第2期第2巻・第3巻(工作舎、2016年・2018年)、オリヴィエ・ブロック『唯物論』(白水社・文庫クセジュ、2015年)、ジャック・デリダ『哲学への権利』第2巻(みすず書房、2015年)がある。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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