2019年6月8日土曜日

「蔵前水の館」(東京都下水道局)を見学してきた(2019年6月7日)ー 下水道もまた近代生活を支える重要なインフラだ

(「蔵前水の館」の全景 筆者撮影)

「蔵前水の館」(東京都下水道局)を見学してきた(2019年6月7日)。JR総武線の浅草橋駅から歩いていける。あるいは都営地下鉄の蔵前駅からも歩いていける。

現役で使用されている下水道管の内部が一般見学できる施設である。見学無料だが予約制である。この日は都内で用事があるために事前にインターネットで予約したが、いつも予約が満杯である。

「蔵前水の館」が蔵の形をかたどっているのは、「蔵前」にちなむものだ。「蔵前」は江戸時代、利根川水運を利用して運ばれてきた「蔵米」を貯蔵するための施設があった場所である。




■下水道は近代都市生活を下支えするきわめて重要な施設

地下に敷設されているために、ふだんは目にすることがないが、近代都市生活を文字通り下支えしている、きわめて重要な施設が下水道だ。

下水道については、拙著『ビジネスパーソンのための近現代史』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2017)でもかなり詳しく取り上げた。最盛期の大英帝国の首都ロンドンについてである。当時はヴィクトリア女王の時代であったが、その夫君のアルバート公は、腸チフスで亡くなったのだという。下水道が整備されていなかったが故の悲劇である。

江戸時代には、糞尿は貴重な有機肥料として活用されており、当時の日本は世界でも珍しく汚水問題は解決されていたのであった。下水道をつくらなくても、肥だめに糞尿を貯めておいて、それを農家が有償で引き取っていた。この事情は、高度成長期に化学肥料が普及するまで続いていたようだ。

江戸時代の日本は、とくに江戸にかんしては、上水道も完備しており、その意味では世界の三大都市(・・ロンドン、北京、江戸)のなかでは、もっとも清潔な都市だったのだ。

とはいえ、明治維新革命のあと、近代化を西欧化として精力的に開始した日本は、下水道もまた近代の重要な要素として普及に努めることになる。当時は、先に挙げたロンドンやパリが最先端の状況であった。


■「蔵前国技館」の跡地に建設された「蔵前水の館」

歴史的な展開はさておき、「蔵前水の館」に話を戻せば、この施設は「蔵前国技館」の跡地に建設されたものらしい。

蔵前国技館が閉鎖されたのは1984年(昭和59年)だから、東京都下水道局北部下水道事務所と見学施設「蔵前水の館」ができてから30年もたっていない。比較的あたらしい施設なのだ。


(蔵前国技館跡地であることを記念して力士の手形 筆者撮影)

見学は1時間。梅雨入りの雨が降っていたからだろうか、見学者はなぜか私一人で、説明を担当してくださった方に、一対一でレクチャーを受けることができた。贅沢な個人授業のような経験をもつことができた。

「浅草橋幹線」という直径6.5mの下水道管を見学することができる。地下30mにある施設だ。じっさいに使用されている下水道の内部を見学することが出来る機会はなかなかないので、じつに興味深く見学した。


(現在使用中の地下30mにある下水道管 筆者撮影)

下水道には「汚水」(おすい)と「雨水」(うすい)の2つがあって、この「浅草橋幹線」は「汚水」の下水道管である。だから、正直いってニオイがあって臭い。まあ、こういうこともまた、インターネットではわからないことだ。この「汚水」は都内の三河島にある「汚水処分場」で処理されてから隅田川に放流される。

大雨のときには増水するので、「汚水」専用の下水道管にも「雨水」が流れ込む仕組みになっている。そのために、水の落下をらせん状に行って、落花速度を減速させるためのに「ドロップシャフト構造」がある。大量の「雨水」が流れ込んだときは、「汚水」と一緒に隅田川に放流してしまうようだ。水の浄化作用があるので問題ないのだ、と。


(ドロップシャフト 筆者撮影)

そのほか、パネル展示で「下水道管の耐震化工事」、「下水道管の再構築工事」、「下水道管に併設された光ファイバー網」や「下水道管の洗浄」、「東京都のマンホール」などがあり、レクチャーと質疑応答でいろいろ知ることができた。マンホールを開けて行う下水道工事現場は目にすることがあっても、地下でどのような工事が行われていることを知ることはできないので、たいへんありがたい。


(「蔵前水の館」(東京都下水道局)のサイトより)


■下水道もまた「見えざる世界」

世の中には「見える世界」と「見えざる世界」の2つが存在している。目に見える世界だけが存在しているわけではないのだ。

下水道もまた「見えざる世界」に属している。「関係者以外立ち入り禁止」なので、一般人が目にすることはできないが、これは物理的に確実に存在する世界である。ただし、関心がなければ、ふだんは意識することもない世界ではある。

みなさんにも、機会をつくって「地下世界」の見学をすることをぜひ薦めたい。

今回はじめて知ったが、旧三河島汚水処分場 喞筒場(ポンプじょう)がるらしい。「国指定重要文化財」の施設であり、「近代化遺産」として大いに関心がある。つぎはこの施設の見学にいく予定だ。すでに予約は完了した(*)


(*)2019年7月3日に実行した。その件については、このブログに記しておいた。「旧三河島汚水処分場喞筒(しょくとう)場」を見学してきた(2019年7月3日)-大正時代初期の「産業遺産」は国の重要文化財 を参照。


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これがバキュームカーだ!-下水道が整備される以前の「昭和遺産」である

書評 『水運史から世界の水へ』(徳仁親王、NHK出版、2019)-歴史学から世界の水問題へ「文理融合」の実践


(2019年7月4日 情報追加)


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