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2019年5月19日日曜日

書評『水運史から世界の水へ』(徳仁親王、NHK出版、2019)ー 歴史学から世界の水問題へ「文理融合」の実践



水運史から世界の水へ』(徳仁親王、NHK出版、2019を読んだ。水関連の講演8本が収録されている。この本の存在を知ったのは、紀伊國屋書店新宿本店で4月27日に出版された拙著『超訳自省録』と並んで「平積み」されていたから。

帯に「皇太子殿下のご講演の記録」とあるのは、出版が即位前の4月であったためだ。天皇に即位しても、ご本人が徳仁(なるひと)親王であることに変わりない。即位後は帯は新しいバージョンに取り替えたのだろうかしらん?

内容は、もともとの学習院大学の学部時代の専門である「日本中世水運史」関連の講演が3本、英国のオックスフォード大学に留学して研究テーマとした「産業革命時代のテムズ河の水運史」関連が2本、「3・11」の東日本大震災の津波災害を機会にあらたに研究を始めた「水災害とその歴史」、そして「水問題」にかんする講演が2本。「世界の水問題の現状と課題」は、国連での基調講演をもとにしたもの。もともとの英文による講演も収録。

『水運史から世界の水へ』というタイトルにあるように、もともと歴史学から始まった研究が、地球環境問題まで視野が拡大し、視点が増加していった経緯がよく理解できる構成になっている。まさに「文理融合」モデルのお手本ともいうべき内容だ。この講演録を読んでいると、天皇陛下の問題意識のあり方が手に取るようにわかる。

このような問題意識を持たれている方が、日本国の「象徴」となられたということは、グローバル時代に生きる日本人にとって、大きなソフトパワーになることは間違いない。ありがたいことだ。

もちろん、いちばん面白かったのは、オックスフォード大学時代の研究と留学生活の回想を語った講演「オックスフォード大における私の研究」。かなり緻密な研究をされていたのだなあという思いとともに、たいへん貴重な経験をなされたのだなあという思いを深くする。

内容的には、かなり専門的な話にも踏み込んでいるが、講演なので読みやすい。天皇陛下のご著書ではなくても、読む価値のある本であると思う。21世紀の現在に生きる人間にとって、「水問題」は避けて通れない問題であるからだ。一読を薦めたい。


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目 次  
はじめに
第1章 平和と繁栄、そして幸福のための水 
第2章 京都と地方を結ぶ水の道-古代・中世の琵琶湖・淀川水運を中心として 
第3章 中世における瀬戸内海水運について-兵庫の港を中心に
第4章 オックスフォードにおける私の研究
第5章 17~18世紀におけるテムズ川の水上交通について
第6章 江戸と水運
第7章 水災害とその歴史-日本における地震による津波災害をふりかえって 
第8章 世界の水問題の現状と課題-UNSGABでの活動を終えて
主な参考文献
参考収録 Quest for Better Relations between People and Water


著者プロフィール
徳仁親王(なるひと・しんのう)
昭和35年(1960)生まれ。昭和57年(1982)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程入学。昭和58年(1983)6月から昭和60年(1985)10月まで英国に滞在し、オックスフォード大学大学院に在学。昭和63年(1988)、学習院大学大学院人文科学研究科博士前期課程修了。平成3年(1991)、オックスフォード大学名誉法学博士。平成4年(1992)より学習院大学史料館客員研究員。平成15年(2003)、第3回世界水フォーラム名誉総裁。平成19年(2007)から平成27(2015)まで国連水と衛生に関する諮問委員会(UNSGAB)名誉総裁。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの) 言うまでもなく、2019年5月1日に即位された。



<ブログ内関連記事>

本の紹介 『鶏と人-民族生物学の視点から-』(秋篠宮文仁編著、小学館、2000)-ニワトリはいつ、どこで家禽(かきん=家畜化された鳥類)になったのか?

「城下町・古河」をはじめて歩いてみた(2019年5月5日)-日光街道の街道筋で利根川と渡良瀬川が合流する地域にある古河は、かつて交通の要衝だった

公開講演会 『海のことは森に聞け-コトの本質に迫るには-』(畠山重篤)にいってきた(国際文化会館 2012年11月17日)-「生きた学問」とはまさにこのことだ!

念願かなって「地下宮殿」を見学してきた(2018年8月11日)-世界最大級の「首都圏外郭放水路」がすごい。百聞は一見にしかず!


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今年2011年の世相をあらわす漢字は 「水」 に決まり-わたしが勝手に決めました(笑)

かつてバンコクは「東洋のベニス」と呼ばれていた・・


バンコクへの渡航は自粛を!-タイの大洪水と今後の製造業立地の方向性について

『龍と蛇<ナーガ>-権威の象徴と豊かな水の神-』(那谷敏郎、大村次郷=写真、集英社、2000)-龍も蛇もじつは同じナーガである

(2019年6月4日、2024年8月26日 情報追加)


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