2020年3月26日木曜日

「誰もが知っている。疫病がやってくることを・・」-レナード・コーエンの名曲 "Everybody Knows" を久々に聴いてみる


新型コロナウイルスの欧州の急速拡大状況に、ふとこの歌のことを思い出した。

カナダ出身の詩人でシンガーソングライターのレナード・コーエンの「誰もが知っている」(Everybody Knows)という歌のことだ。ひさびさに聴いてみた。I'm Your Man というアルバムに収録されている曲だ。

船は水漏れして沈みかけている、すべてが最初から仕組まれた八百長で、金持ちはさらに金持ちに、貧乏人はさらに貧乏になると、世の中はしょせんこんなものなのだ、とシニカルに歌う歌詞が続く。

そして、歌詞が5番までくると、感染症の話になるのだ。ゴチックにした下線部に注目してほしい。


And everybody knows that the plague is coming 
Everybody knows that it's moving fast 
Everybody knows that the naked man and woman 
Are just a shining artifact of the past
(・・後略・・)

試みに日本語に訳しておこう。

 
誰もが知っている。疫病がやってくることを。
誰もが知っている。感染の拡がりが早いということを。
誰もが知っている。裸の男と女は、
過ぎ去った輝かしい遺物に過ぎないということを。
(・・後略・・)

1988年の曲なので、おそらくエイズのことが念頭にあるのだと思う。

性感染症のエイズは現在でも根絶されたわけではないが、感染爆発に人類がおびえていた時代は、すでに過去のものとなっている。

新型コロナウイルスは性感染症ではないが、それでも「濃厚接触」以上の「密着接触」すれば、口鼻目や性器の粘膜をつうじてウイルス感染することを考えれば、性感染症に準じる存在だといえなくもない。

だが、感染症はウイルスの種類を変えて、ふたたび人類に襲いかかってくる。2005年のSARSも2020年の新型コロナウイルスもまたしかり。だから、この曲を思い出したわけであり、繰り返し聴いていると、世の中なんてこんなものだという気にされてくるのだ。「誰もが知っている」(Everybody knows)のだ、と。

スローモーで渋い低音、歌われる歌詞の内容は、美しいがあまりにも身もふたもないものだ。好きな人は好きだろうが(私は大ファンだ)、そうでない人には耐えられないかもしれない。

レナード・コーエンが、単なるシンガーソングライターではなく、本質的に詩人であり、現代の吟遊詩人と呼ばれていた理由がそこにある。

いまは亡きレナード・コーエンだが、ボブ・ディランもさることながら、ほんとうはこの人こそノーベル文学賞にふさわしかったのだと、私は強く思うのである。





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