新型コロナウイルスの欧州の急速拡大状況に、ふとこの歌のことを思い出した。
カナダ出身の詩人でシンガーソングライターのレナード・コーエンの「誰もが知っている」(Everybody Knows)という歌のことだ。ひさびさに聴いてみた。I'm Your Man というアルバムに収録されている曲だ。
船は水漏れして沈みかけている、すべてが最初から仕組まれた八百長で、金持ちはさらに金持ちに、貧乏人はさらに貧乏になると、世の中はしょせんこんなものなのだ、とシニカルに歌う歌詞が続く。
そして、歌詞が5番までくると、感染症の話になるのだ。ゴチックにした下線部に注目してほしい。
And everybody knows that the plague is coming
Everybody knows that it's moving fast
Everybody knows that the naked man and woman
Are just a shining artifact of the past
(・・後略・・)
試みに日本語に訳しておこう。
誰もが知っている。疫病がやってくることを。
誰もが知っている。感染の拡がりが早いということを。
誰もが知っている。裸の男と女は、
過ぎ去った輝かしい遺物に過ぎないということを。
(・・後略・・)
1988年の曲なので、おそらくエイズのことが念頭にあるのだと思う。
性感染症のエイズは現在でも根絶されたわけではないが、感染爆発に人類がおびえていた時代は、すでに過去のものとなっている。
新型コロナウイルスは性感染症ではないが、それでも「濃厚接触」以上の「密着接触」すれば、口鼻目や性器の粘膜をつうじてウイルス感染することを考えれば、性感染症に準じる存在だといえなくもない。
だが、感染症はウイルスの種類を変えて、ふたたび人類に襲いかかってくる。2005年のSARSも2020年の新型コロナウイルスもまたしかり。だから、この曲を思い出したわけであり、繰り返し聴いていると、世の中なんてこんなものだという気にされてくるのだ。「誰もが知っている」(Everybody knows)のだ、と。
スローモーで渋い低音、歌われる歌詞の内容は、美しいがあまりにも身もふたもないものだ。好きな人は好きだろうが(私は大ファンだ)、そうでない人には耐えられないかもしれない。
レナード・コーエンが、単なるシンガーソングライターではなく、本質的に詩人であり、現代の吟遊詩人と呼ばれていた理由がそこにある。
いまは亡きレナード・コーエンだが、ボブ・ディランもさることながら、ほんとうはこの人こそノーベル文学賞にふさわしかったのだと、私は強く思うのである。
<ブログ内関連記事>
レナード・コーエン(Leonard Cohen)の最新アルバム Old Ideas (2012)を聴き、全作品を聴き直しながら『レナード・コーエン伝』を読む
(2019年4月27日発売の拙著です)
(2017年5月18日発売の拙著です)
ツイート
ケン・マネジメントのウェブサイトは
ご意見・ご感想・ご質問は ken@kensatoken.com にどうぞ。
お手数ですが、クリック&ペーストでお願いします。
禁無断転載!
end