本日(5月9日)はロシアの祝日。独ソ戦の戦勝記念日だ。とくに今年は75年目の記念日となる。第2次世界大戦の「独ソ戦」は、史上最大の殺戮戦といっていいだろう。
進撃するドイツに抵抗するソ連。後退しながらも持ちこたえた900日(!)近くに及んだ「レニングラード包囲」、ドイツ敗退への分岐点となった「スターリングラード攻防戦」など、島国に生きる日本人には想像もつかないような激戦が5年にわたって続いたのである。
最終的にソ連軍がドイツに突入して「ベルリン解放」(1945年5月2日)を行い、独ソ戦は終結したのであった。ソ連(のちのロシア)では「大祖国戦争」と呼ぶ。スターリンの命名だ。崩壊後のドイツが降伏文書に署名した5月9日が、ソ連にとっての「戦勝記念日」となった。
そんな独ソ戦の最中、ソ連のパルチザン兵のあいだで歌われた愛唱歌が「前線の森にて」(В лесу прифронтовом)だ。ワルツ形式の歌謡曲。ロシア民謡ではなく、いわゆるソビエト歌謡。ここではロシア語の歌詞と日本語の訳が掲載されたバージョンを掲載しておこう。 これは、女優エカチェリーナ・グーセヴァが歌うバージョン。
個人的には、ロシアの歌姫アルスーが歌うバージョンが好きだが、アルスーはタタール系ロシア人。エカチェリーナ・グーセヴァのようなスラブ系ではなく、タタール系のアルスーがこのような愛国歌を歌う現在のロシアに関心がある。アルスーはこうしたソビエト歌謡でアルバムを1枚制作して、ロシアでは大ヒットになっている。
死闘の末にドイツを打ち負かしたソ連にとって、最後の戦いは帝国日本との戦争であった。独ソ戦に従軍した将兵と武器の移動に3ヶ月かかることを想定したスターリンは、最終決戦を8月に設定していた。
PS ユーラシア国家ロシアの東西観の違いが現れたか?
今年は新型コロナウイルスのパンデミックで、戦勝記念日どころではないというのがロシアの現状だ。おかげで安倍首相は訪ロできなくなり、北方領土問題で無用な譲歩を迫られる可能性も後退した。
当初は権威主義体制だから感染拡大を押さえ込んだのだと、ある種の敬意(?)をもって眺められたプーチン政権だが、国境を接する盟友・中国を含めた「東方」には厳しい態度で臨んだものの、「西方」の最大感染地イタリアのスキーリゾートから富裕層が持ち込んで一気に感染拡大となった模様だ。
あまり指摘されていないが、東西に広いユーラシア国家ロシアの「東方」に対する見方と「西方」に対する見方の違いが如実に反映したような気がするのである。
第2次世界大戦にあてはめて見れば、「東方」はノモンハン戦争で激突した帝国陸軍(さらにいえばシベリア出兵と日露戦争、中国共産党とのダマンスキー島紛争)、「西方」は死闘を続けた独ソ戦である。
(2020年5月11日 追記)
<ブログ内関連記事>
「先の大戦」関連本から「これぞという3冊」をピックアップして紹介
・・2019年度の新書本ベストセラー『独ソ戦-絶滅戦争の戦慄-』(大木毅、岩波新書、2019)を紹介
JBPress連載コラム第29回目は、「ロシアの「飛び地」に見る国境線のうつろいやすさ-Wカップの舞台となったカリーニングラードの歴史」 (2018年7月3日)
64年前のきょう、ソ連軍が「対日宣戦布告」して侵攻を開始した
JBPressの連載コラム第59回は、「あの抵抗がなければ日本は分断国家になっていた-日本側の希望的観測が招いた「ソ連侵攻」の悲劇」(2019年8月27日)
「ノモンハン事件」勃発から80年(2019年5月11日)-末尾が「9」の年に起こったこと
書評 『ノモンハン戦争-モンゴルと満洲国-』(田中克彦、岩波新書、2009)-もうひとつの「ノモンハン」-ソ連崩壊後明らかになってきたモンゴル現代史の真相
JBPressの連載コラム第60回は、「悲壮な肉弾戦で惨敗、「ノモンハン事件」の教訓とは-日本を破滅に導いた国境紛争、連続した世界を生きている私たち」(2019年9月10日)
JBPress連載コラム第46回目は、「知られざる戦争「シベリア出兵」の凄惨な真実 「失敗の本質」の原点がそこにある」(2019年2月26日)
(2023年11月25日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年12月23日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2022年6月24日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年11月19日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2021年10月22日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2020年12月18日発売の拙著です 画像をクリック!)
(2012年7月3日発売の拙著です 画像をクリック!)
end