2021年4月16日金曜日

書評『プーチンの国家戦略 ー 岐路に立つ「強国」ロシア』(小泉悠、東京堂出版、2016)ー「見かけほど強くはないが、見かけほどは弱くない」等身大のロシアを軍事という側面から把握する

 
 「ロシアは見かけほど強くはないが、見かけほどは弱くない」。ドイツ帝国の鉄血宰相ビスマルクがそう言っていたらしい。なるほど、言い得て妙とはこのことだろう。 

ロシアは、帝国時代から2回の革命(・・ソ連の誕生と崩壊)を経て現在に至っているわけだが、ソ連崩壊から30年近くが経った現在、ふたたび「強国」イメージを確立することに成功したようだ。だが、イメージと実体にはすくなからぬズレがあることもまた事実である。 

そんなロシアを理解するには、さまざまなアプローチがあるが、「強国」イメージをつくりあげているのは、なんといっても軍事的側面である。

かならずしもハードの軍事力そのものではない「ハイブリッド戦争」が中心となっている現在のロシアであるが、「強国」イメージを増強するのに大いに貢献していることは言うまでもない。 

ロシアの軍事研究の数少ない若手研究家が小泉悠氏である。TVなどさまざまな媒体で活発な発言をしており、その知見には学ぶことが多いが、今回はじめてその著書を読んでみた。 

まずは、『プーチンの国家戦略-岐路に立つ「強国」ロシア』(東京堂出版、2016)、そして『「帝国」ロシアの地政学-「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版、2019)である。ビスマルクによるフレーズは、前者に引用されていたのではじめて知った。 

この2冊のタイトルを見ると、重要な概念が盛り込まれていることに気づくはずだ。 

「強国」と「帝国」がイメージであるとすれば、「地政学」と「勢力圏」は、「ユーラシア」にまたがる広大なロシアを統治するための基本的フレームワークにかんする発想であるといっていい。 

ヨーロッパでもありアジアでもある「ユーラシア国家」としての「大陸国家」ロシアは、日本のような「島国」の住人には感覚的に理解しがたいのは当然だ。 

広大な領土に散在する「多民族・多宗教国家」ロシア。そこではどうしても「遠心力」がはたらきがちであり、統一国家として維持しつづけるためには強力な「求心力」が必要となる。でないと、あっという間にバラバラになってしまう危険がある。 

だから、どうしても、広大な土地を統治するのは、ある程度まで権威主義的な指導者が必要である。カリスマ的な指導者と、目に見える軍事力が必要なのである。

経済規模からみたらけっして「大国」ではない現在のロシアに、固有のロジックにもとづく戦略が存在し、ロシアがロシアとしてきわめて合理的な振る舞いをしていることを知れば、けっして過大視することも、過小視することもなくなるだろう。 

等身大のロシアを把握するために、この2冊はきわめて有用だ。


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目次
序章 プーチンの目から見た世界
第1章 プーチンの対NATO政策- ロシアの「非対称」戦略とは
第2章 ウクライナ紛争とロシア?「ハイブリッド戦争」の実際
第3章 「核大国」ロシア
第4章 旧ソ連諸国との容易ならざる関係
第5章 ロシアのアジア・太平洋戦略
第6章 ロシアの安全保障と宗教
第7章 軍事とクレムリン
第8章 岐路に立つ「宇宙大国」ロシア
結び

   



目次
はじめに-交錯するロシアの東西
第1章 「ロシア」とはどこまでか-ソ連崩壊後のロシアをめぐる地政学
第2章 「主権」と「勢力圏」-ロシアの秩序観
第3章 「占領」の風景-グルジアとバルト三国
第4章 ロシアの「勢力圏」とウクライナ危機
第5章 砂漠の赤い星-中東におけるロシアの復活
第6章 北方領土をめぐる日米中露の四角形
第7章 新たな地政的正面 北極
おわりに-巨人の見る夢




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