2021年5月15日土曜日

書評『竹中平蔵 市場と権力-「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(佐々木実、講談社文庫、2020)-「経済学者」を自称するこの男にはアンビバレントな感情を抱かざるを得ない・・


『竹中平蔵 市場と権力-「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(佐々木実、講談社文庫、2020)を読んだ(*)。面白いので、ついつい最後まで読みたくなる本だ。 

(*)読んでこの書評を書いたのは2020年12月のことだが、このブログへの投稿は半年後の5月になった。

竹中平蔵という「経済学者」の評価は、完全に二つに分かれるだろう。「経済学者」とカッコ書きで書いたのは、この人は、狭い意味での経済学者とはとても言えないからだ。 

博士号取得にまつわる話や、「構造改革」の仕掛け人であることをつうじて富を築いてきた履歴を読み進めてくと、ヨコ文字をタテにしているだけじゃないのか、学者というよりもフィクサーではないのか。そういう気持ちにさせられる。 

1991年から日経記者を5年経験しているにもかかわらず(いや、だからというべきか)、基本的に著者の立場は、竹中平蔵という人物に対しては批判的である。だが、膨大な取材によって固められた周辺情報が、人物評価の是非は別にして読みごたえがある本にしている。

「ああ、あれはそういうことだったのか」、という納得感を得られる記述が多いのだ。 

竹中平蔵という男に対して、私自身がアンビバレントな感情を抱くのは、おなじ大学の出身で、しかもおなじく金融業界にいたからである。

この本に出てくる有象無象の人物たちの多くが、おなじ金融世界の住人だ。間接的にいろいろ悪評は耳にしていたし、バブル期とバブル崩壊後の「空気」が手に取るようにわかるのも、読んでいて面白いと思った理由だ。 

竹中氏の功罪に対しては、是々非々の観点から、評価すべき点は評価すべきであろう。とはいいながらも、この人物には、胡散臭さがつきまとうのも否定できない好きかと言われれば、はっきりいって好きではない正直いって共感しにくい人物である。 

竹中氏が国会議員に立候補した際には、大学の同窓会をつうじて「竹中平蔵君をお願いします」というハガキが来ていたが、黙殺したことをここに書いておこう(笑)

「グローバリゼーション」という名の「アメリカナイゼーション」の旗振り役を演じ、「アメリカの代理人」として生きてきたこの人物が果たしてきた罪は大きい。「改革」の代償に目を向けるべきだろう。いったい誰のための「改革」だったのか、と。 

単行本がでたのは2013年だが、文庫化には結局7年もかかってしまった。ようやく文庫化されたのだが、タイミング的には絶妙だ。またぞろ、菅(スガ)政権の誕生とともに復活の兆候があらわれているからだ。その意味では、いまこの本を読む意味は少なくない。 

バブル崩壊後の1990年以降の日本現代史を考える上でも、避けて通れないテーマである。これ以上、日本崩壊を防ぐためにも、この人物の動向から、目は離せないのである。 




目 次
はじめに 「改革」のメンター 
第1章 和歌山から東京へ
第2章 不意の転機
第3章 アメリカに学ぶ
第4章 仮面の野望
第5章 アメリカの友人
第6章 スケープゴート
第7章 郵政民営化
第8章 インサイド・ジョブ
おわりに ホモ・エコノミカスたちの革命
あとがき
文庫版のためのあとがき
参考文献一覧 

著者プロフィール
佐々木実(ささき・みのる)
1966年大阪府出身。大阪大学経済学部を卒業後、1991年に日本経済新聞社に入社。東京本社経済部、名古屋支社に勤務。1995年に退社し、フリーランスのジャーナリストとして活動している。2013年に出版した『市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社)で第45回大宅壮一ノンフィクションと第12回新潮ドキュメント賞をダブル受賞。社会的共通資本の経済学を提唱した宇沢弘文に師事し、彼の生涯を描いた『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』(小社刊)で第6回城山三郎賞と第19回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞をダブル受賞した。



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