2022年3月27日日曜日

巨匠アンジェイ・ワイダ監督の映画『カティンの森』(2007、ポーランド)をようやく視聴 ― 大国のはざまで翻弄されてきたポーランド現代史の悲劇


 
アンジェイ・ワイダ監督の映画『カティンの森』(2007年、ポーランド)をようやく視聴。大国ドイツと大国ソ連のはざまに位置するポーランドが味わった現代史の悲劇を扱った作品だ。123分。 

 重くて深く、かつ暗いテーマを扱った作品だけに、なかなか気軽に見る気持ちにはならない映画だが、いま進行中の「ウクライナへ戦争」に際して、ふたたび最前線となったポーランドについて知る上では避けて通れない内容といえよう。


 

構想50年、製作17年となったのは、まさに「現代史」がテーマであるからだ。現代史は、立ち位置によって語られ方が大きく異なる性格をもつ。なぜなら、現存者が多数いるだけに扱いが難しいからだ。 

1939年9月1日に電撃戦によって、西部からポーランドに侵攻してきたのがドイツ軍であった。東部から侵略してきたのがソ連軍。同年8月に締結されていた「独ソ不可侵条約」にともなう「密約」によって、独立を回復していたポーランドはふたたび分割占領されることになる。

ポーランドは、最終的にソ連軍がドイツ軍を駆逐することによって「解放」されたわけだが、占領が始まった段階で、ポーランド軍の将校1万数千人(!)がソ連の捕虜となり、最終的に虐殺され、カティンの森に埋められるという事件が発生している。それがこの映画のテーマである「カティンの森」事件だ。


 

1943年にドイツ軍がソ連に侵攻した際、カティンの森でポーランド将校たちの虐殺死体を発見、ソ連軍によるものと非難した。1945年にはドイツ軍を追い払ったソ連が、虐殺はドイツ軍によるものであったと宣伝活動を行う。ピンポンのように揺れ動く状況で、ポーランドは翻弄されることになるが、大戦後にソ連圏に入ったポーランドでは事件の真相を語ることは不可能となる。 
 
そんな事情があったから、ソ連崩壊まで「カティンの森」の真相を究明したり、それについて語ることができなかったのだ。だが、犠牲者となったのはソ連軍の捕虜となって虐殺された将校たちだけではない。大学人や知識人たちは、ナチスドイツの犠牲になったことも映画では取り上げられている。




冷戦時代にソ連の支配下で生きることを余儀なくされたポーランド人たちの姿は、米軍占領時代を除いて他国による支配が繰り返されたことのない日本人には、想像を越えたものがあるというべきだろう。 




さすが巨匠アンジェイ・ワイダ監督の作品だけに、緊密な構成と映像美には圧倒される。映像は重厚だが美しい。

映画の舞台は基本的にポーランド南部の古都クラクフ。ワイダ監督の出身地でもある。大規模な蜂起が展開したワルシャワと違って、破壊されることとのなかったクラクフは美しい(・・わたしも一度訪れたことがある。アウシュヴィッツへのアクセス都市でもある)。 




ラストシーンは、ポーランド軍の将校がソ連軍によって処刑されていくシーンとなるが、将校たちが後ろ手に縛られ、至近距離から後頭部を拳銃で打ち抜かれるシーンの連続には、さすがに目を背けたくなる。視聴に際してR15の年齢制限があるのは当然だろう。 

だからこそ、精神状態が良好なときでないと、内容的に見るのがつらい映画であるが、日本と日本人にとって、「ロシアをはさんで隣国」となるポーランドとポーランド人について、より深く知るためには、かならず見なくてはいけない映画だと、あらためて強く感じるのである。





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