2022年5月7日土曜日

書評『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略-世界はどう変わるのか』(遠藤誉、PHP新書、2022)中国を軸に世界情勢の激変を考察するヒントをあたえてくれる本

 

2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ軍事侵攻は、すでに2ヶ月以上つづいているが、そもそもなぜウクライナを舞台に戦争が勃発したのか、その背景にあるNATO拡大をめぐる米ロ関係、蜜月とされてきた中ロ関係など、大国間の国際関係を解きほぐそうという試みである。 


物理学で博士号をもつ著者の遠藤誉氏は、中国共産党の分析を長年にわたって行ってきた人である。その意味でも、中国とウクライナの関係について焦点をあてた点が重要だろう。 

現在の日本ではウクライナへの支援がクローズアップされているが、軍事を含んだ経済的関係からいったら、中国とウクライナの関係のほうが、はるかに強く、かつ太い。つまり濃厚な関係にあるのだ。 

そういう背景をおいて考えると、なぜイーロン・マスクがウクライナにスターリンクを供与したのか、その意味も見えてくる。テスラのEVとウイグル、この2つのキーワードを軸にしたにおける中国とマスクの関係は、もっと深掘りするべきだろう。ニュースの見方が変わるはずだ。 


プーチンをしてウクライナ軍事侵攻に踏み切らせたのは、バイデンの謀略作戦という著者の見方は、そのとおりだろう。状況証拠を積み上げての検証は、説得力がある。

著者は指摘してないが、米国はグローバリストである民主党政権時代に大規模戦争に踏み込むというのは、国際政治の経験則である。第2次世界大戦のルーズヴェルトしかり、ベトナム戦争のケネディしかり。 ある意味では、今回の戦争はバイデンにとっては、政治家人生の総仕上げという位置づけであろう。

だが、ウクライナのゼレンスキー首相は、口が裂けても米国批判はできまい。ことの真偽は後世の歴史家にまかせるしかなかろう。だが、そのときには、すでにバイデンもプーチンもこの世にいない。世の中とは、そういうものだ。 

新書版という小冊子なので、掘り下げ方が浅いという感想があるが、日本の安全に直接影響をあたえる中国の動向について考えるためには、参考になる見解が多々ある。ただし、著者の見解に完全に同意する必要はない。あくまでも一つの見方である。 

著者の思いは別にして、進行中の事態を理解するために事実関係を整理するためのヒントをあたえてくれる本である。 経済という絡め手で、じわじわと政治目的を遂行する中国共産党の動向こそ、日本国民は要注視しなくてはならない。気がついたときにはでは遅すぎるのだ。 




目 次
はじめに
第1章 中露間に隙間風-ロシアの軍事侵攻に賛同を表明しない習近平
第2章 習近平が描く対露『軍冷経熱』の恐るべきシナリオ
第3章 ウクライナ軍事侵攻は台湾武力攻撃を招くか?
第4章 習近平のウイグル「太陽光パネル基地」戦略とイーロン・マスク効果
第5章 バイデンに利用され捨てられたウクライナの悲痛
第6章 ウクライナを巡る「中露米印パ」相関図-際立つ露印の軍事的緊密さ
おわりに-戦争で得するのは誰か


著者プロフィール
遠藤 誉(えんどう・ほまれ)
中国問題グローバル研究所所長。 1941年中国吉林省長春市生まれ。国共内戦を決した「長春食糧封鎖」を経験し、1953年に日本帰国。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』、『卡子(チャーズ)中国建国の残火』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(白井一成との共著)、『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』など多数。


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