7月4日は「アメリカ独立記念日」(Independence Day)。ことしで建国256年となる。
このタイミングで、映画『7月4日に生まれて』(1989年、米国)を日本公開の32年ぶり(!)に視聴した。原題は Born on the Fourth of July であり、めずらしく日本語版も直訳だ。ベトナム反戦ものである。144分
監督は、オリバー・ストーン。1980年代後半に製作された一連のベトナム戦争ものの口火をきった『プラトーン』(1986年)で一躍有名になった左派の映画人。脚本もまたかれが書いている。
主演は、若き日のトム・クルーズ。じつは本日(7月3日)はかれの誕生日。『トップガン』で主役を演じたのは1986年。その3年後には、ずいぶんテイストの違う映画に出演していたのである。32年前に映画館で見たときにも、そう思ったことを覚えている。
映画『7月4日に生まれて』は、志願して海兵隊に入隊し、ベトナムの最前線で戦い、脊髄損傷絵下半身不随の重傷を負って帰ってきた「ホームカミング」とその後の人生を描いた実話だ。 原作者のロン・コーヴィク(Ron Kovic)が、主人公の名前としてそのまま登場する(・・演じているのはトム・クルーズ)。
ベトナム反戦運動が燃えさかる1968年の現実。祖国のために尽くしたはずの自分が、なぜ社会で嘲笑され、浮いた存在になってしまうのか。 車いすの生活を送る主人公。失われた青春は、失われた男性機能は、もう取り戻せない。
気丈に振る舞おうとするが、絶望的な気分のなか感情の爆発を押さえられないこともある。現実を否定し、抵抗するが、しかし最終的にあるがままの現実を受け入れ、自分の生きる道を見つける主人公。その道とは、愛国心があるからこそ、大義なき戦争に反対するというものである。
ある意味で青春映画である。そして、大きな挫折をつうじて人間として成長していく物語でもある。
これまた不思議なことに(?)、あらすじだけは覚えていたものの、ディテールについてはまったく記憶から消えていたのだ。なんだか、はじめてこの映画を見るような気持ちさえした。映画館で見るのと、自宅でストリーミングで見るのとでは、こうも違うのか。
とはいえ、ディテールにまで目をこらして視聴していると、以前には見えなかったものが見えるようになっていることにも気がつく。
英語力についてもそうだし、米国社会についてもそうだし、知識や経験の積み重ねが映画を読み解く能力を向上させているのだろう。 なんといっても、人生経験の積み重ねは大きい。
なにげないシーンをみても、その意味がすぐにわかるのである。たとえば、小道具として『ジョニーは戦場へ行った』や『西部戦線異常なし』といった第1次世界大戦ものの反戦小説が置かれている。もちろん英語版だが、この映画が反戦映画だということをモノとして示しているわけだ。
トム・クルーズは『トップガン』だけではない。こんな映画にも出演していたのだ、と。
PS 主人公が生まれ育ったニューヨーク州ロングアイランドは戦後アメリカ社会の象徴
復員兵向けの規格化された廉価の戸建て住宅を供給して形成されたのが「レヴィットタウン」(Levittown)とよばれた「白人ミドルクラスの郊外」(サバ-ビア Suburbia)。
これは、ニューヨーク州ロングアイランドの不動産業者ウィリアム・レヴィットが始めたものだ。映画に登場する住宅街は、まさに「レヴィットタウン」そのものであろう。
主人公の父親は、第2次世界大戦の復員兵。ファミリーネームのコーヴィク(Kovic)は、本来の発音はコーヴィチであろう。ポーランド系で子だくさんのカトリックである。
この映画のディテールを見ていくと、この一家がある意味では、典型的なアメリカの白人中流家庭であったことがわかる。1950年代という「アメリカの黄金時代」の「古き良きアメリカ」である。「1968年」前後を境に激変していった米国社会。1980年代のレーガン時代に進行した健全な中流階級の崩壊。すでに失われて、もはや戻ることのない世界。
1950年代へのノスタルジアも、この映画のテーマでもある。そんな観点から見ることもできる映画だ。
(2022年7月7日記す)
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