2023年9月2日土曜日

ジャニーズ社の「性加害問題」についての「調査報告書」を読んだ(2023年9月2日)ー 「同族経営」の負の側面がもろにでた事件。「ガイアツ」がなければ動かないのが日本社会の問題だが、変革への動きは止めてはならない

 
ジャニーズ社の「性加害問題」についての「調査報告書」を読んだ。


独立した第三者という「外部専門家による調査報告書」なる文書を読んだのは、はじめてのことだ。ジャニーズ社が依頼したものである。

調査チームは、弁護士と精神科医と臨床心理士の3名。それに弁護士6名が協力する形になっている。

単独の筆者によるものではなく、しかも限られた時間のなかで行われた調査結果をまとめたものである。チームによる調査報告書だけに、やや繰り返しが多いのが目につくが、なんといっても複数の「証言」が収録されているので読みでがあった。

読みでがあったというのは、あまりよい表現ではないかもしれない。故ジャニー喜多川氏による「性加害」については、もちろん以前から知っていたが、ここまで具体的に語られているのを読むのははじめてだ。


■外部調査委員会に精神科医と臨床心理士が入っている意味

ナマナマしいというか、おぞましいとしかいいようのない体験。しかも、それらが複数の被害者たちに対してのものであり、具体的なディテールまで語られているのだ。

掲載されている証言で語られている、フラッシュバック現象とPTSD(心的外傷後ストレス障害)の深刻さがつよく印象に残った。なぜ外部調査委員会に精神科医と臨床心理士が入っているかよくわかった。

「性加害」問題は、ハラスメントを受けた被害者の人権問題であるだけでなく、被害者の心のケアにもかかわる問題なのだ。

パラフィリアという表現を目にするのもはじめてのことだ。パラフィリア(paraphilia)とは、性的嗜好障害、性嗜好異常のことである。一般用語では性的倒錯とよばれているものだ。ジャニー喜多川氏のそれは、まさにパラフィリアとしかいいようがない。

エンタテインメント業界でこれまで問題にされてきたのは、もっぱらプロデューサーなどによる女優や女性スタッフへの「性加害」であった。

これは日本だけではなく、自殺者を多数出している韓国だけでなく、全世界的に発生してきた、いやいまでも発生しつづけている問題である。力関係で上位にあって生殺与奪を握っている男性が、下位にある女性たちを性的に搾取する構造。

ところが、男性の上位者による少年の「性加害」については、真剣に取り上げられてこなかった。なんとなくありそうだと誰もが感じていながら、これほど大胆に、かつ長期にわたって繰り返し行われていたとは! 

想像力の欠如を感じないわけにはいかない。マスコミの不作為ばかりを責めても意味がない。ジャニーズ社とTV業界を含めたマスコミがズブズブの関係にあったおことだけが問題ではない。男性の性被害問題については、真剣に考えなくてはいけないと痛感する。


■ガバナンスにかんする同族経営の「負の側面」

また、「同族企業」が問題を隠蔽する原因となったと指摘されている。

「同族経営の弊害」とは、英語でいう "skeleton in the backboard" のことだろう。直訳すれば「背板の裏に隠した骸骨」。家族の不祥事は、外部から秘密にしたいという心理的規制が働くことである。

ジャニー氏の生前は、実姉であるメリー藤島氏の共同経営であった。株式も折半で共有していた。メリー氏が弟の "skeleton in the backboard" の隠蔽に関与していたわけであり、その意味では共犯者である。

とはいえ、同族経営そのものが諸悪の根源だと誤読されないか懸念される。「同族経営の負の側面」がもろに出たと言い換えるべきではなかろうか。同族経営そのものが諸悪の根源であるかのような言説に違和感を感じるのは、わたしだけではないはずだ。

芸能事務所というものは「属人的性格」のつよい人材ビジネスである。給与の支払いも不明朗な点が多々あるようだ。ヒトにかかわる話、カネにかかわる話は、「外部の視点」がないと自浄作用は働かない。

ガバナンスにかんしては、取締役会を開催していなかった問題、株式所有構造の問題など会社法関連の指摘も指摘されている。風通しのよい組織に変革して、外部からの透明性を高めなくてはならない

会社組織にかんする制度面での改革は必至である。


■「ガイアツ」がなければ変わらない日本

「調査報告書」を読んだあと、BBCの調査報道をはじめて視聴した。存在そのものは知っていたが、とくに視聴しようとまでは思っていなかったのだ。


敗戦後の日本文化そのものと一体化していたジャニーズ日系アメリカ人であるジャニー喜多川氏が日本ではじめたビジネス。もはやジャニーズ抜きではエンタメが語れないほどの怪物と化していた実態。

日本人自身による自浄作用が働かなかったのは、残念なことではある。好感度の高いジャニーズのタレントたちに「知られざる闇」があるなどとは考えたくない、そんな心理的規制が働くのも否定できないことだ。

BBCによる調査報道は、そんな状況に風穴を開けたことになる。敗戦後の日本と米国の関係に風穴を開けたのは、米国のジャーナリズムではなく、英国のBBCだったという事実。なんだか、いわく言いがたいものを感じるのはわたしだけだろうか。

さらに、国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会が、ジャニーズの「性加害問題」など日本の人権課題について改善を迫っている。日本政府に対して改善を迫っているのである。

「外圧」である。「ガイアツ」である。自分の内側からではなく、変革を迫る外国からの圧力のことである。

米国のクリントン政権の圧力で、1990年代の日本では「ディレギュレーション」(=規制撤廃)が実行されたが、その頃よく「ガイアツ」ということばを耳にしたものである。「ガイアツ」は、gaiatsu として英語にもなった。その定義は、Foreign pressure; pressure applied by one country onto another. とある。

日本人としては、よそからとやかく言われるのは正直いって不愉快な点もなくはなない。だが、こと「性加害」問題にかんしては自浄作用が働かない日本にとっては、このような「ガイアツ」なら大いに歓迎だ。これを機会に大きく変わっていかなくてはならない。


■カトリック教会の少年に対する「性加害」を想起させる

少年に対する「性加害」問題としては、海外ではカトリック教会による性加害問題が大問題になっており、つぎからつぎへと告発がなされているが、抜本的な対策がいまだに実行されていない。

「性加害」問題は、エンタテインメント業界だけでなく、宗教界でも、スポーツの世界でもありうることだ。「性加害」に限定しなければ、相撲部屋での暴力事件など枚挙にいとまがない。

ジャニーズのタレントに好き嫌いはあっても、まったくその存在を知らないという日本人はまずいないだろう。TV業界をはじめとするマスコミとズブズブの関係にあっただけでなく、日本人の日常にどっぷり入り込んでいる。

「性加害」問題を克服し、自浄作用が行われたあとのジャニーズが一日もはやく実現することを願う。

ジャニーズ社だけでなく、日本人全体にとっての問題だからだ。



<関連サイト>




(2023年9月21日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

・・問題構造はジャニーズ性加害問題と似ている


・・「日米双方にかかわらざるを得なかった「日系二世」兵士たちのなかには、日本における諜報活動にかかわりワシントンハイツに住んだものもいたことが明かされる。また、ロサンゼルスのリトルトーキョーで仏教布教に従事した真言宗僧侶の二世として誕生したジャニー喜多川とワシントンハイツの関係は興味深いエピソードだ。ジャニーズもまたワシントンハイツから生まれた」


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