(藍染のプロセス 筆者撮影 以下同様)
今週(2024年4月10日)のことだが、藍染(あいぞめ)職人の指導のもと、生まれてはじめて「藍染」を体験した。
「藍染」の「藍」(あい)は天然素材。藍色は「ジャパン・ブルー」(Japan blue)とも呼ばれるように、日本を代表する伝統色だ。
訪問したのは、千葉県柏市逆井(さかさい)にある「角(すみ)藍染工房」。ベテラン藍染職人の角敏憲(すみ・としのり)さんとは、数年前に副業先で同僚として知り合った友人だが、工房を訪ねるのは今回がはじめて。ようやく工房訪問が実現したわけだ。
染色工房を訪れたのは、インドネシアのジャワ島でのバティック(=ろうけつ染め)工房訪問以来のことになる。
北海道出身の角さんは、昔ながらの天然の材料にこだわって藍染を行ってきた根っからのベテラン職人。京都など伝統産業のあり方に過度にとらわれることがないのは、職人の家に生まれたからではないからだろう。
(角さんのストーンヘンジをモチーフにした作品 筆者撮影)
その昔フランスはパリに長期滞在して現地の人に指導したり、個展を開いたこともあるという。 基本は職人(アルティザン)であるが、美術家(アーティスト)でもあるのだ。みずからも「藍染アーチスト」と名乗っている。
(ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡をモチーフにしたTシャツ 同上)
藍染といえば京都を中心に、藍の一大生産地であった徳島のほか、岡山やその他関東も含めた日本各地で行われているが、現在では職人の数も少なくなっているようだ。明治時代後期にドイツ製の化学染料にとって代わられてしまい、急激に衰退してしまったのだ。
ちなみに「日本資本主義の父」渋沢栄一の実家は藍を栽培しており、染料としての「藍玉」(あいだま)の生産と販売を行って豪農となったことは、NHK大河ドラマで知られるようになったのではないかな。
まさに「藍より青く」である。「出藍(しゅつらん)の誉れ」を地で行ったのが渋沢栄一だったわけだ。
■はじめての「藍染体験」 について
四方山話のあとは「藍染体験」をさせてもらうことに。真っ白なTシャツを藍(あい)で染めるのである。Tシャツはコットン製、藍も天然素材。
染料としての藍は素材は選ばないが、なによりもコットン(木綿)と相性がいいという。だから、木綿が一般に普及した江戸時代以降の日本で、藍染が定着し、ジャパン・ブルーとなったのだ。
天然素材だから肌に優しい、化学染料ではないので環境汚染にならない、しかも藍染した布は色落ちしないだけでなく、抗菌性や消臭性にすぐれており、虫食いを受けにくく保存性が高いなど、いいことづくめだという。
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さて、「藍染体験」だが、まずは「藍を建てる」ことから始める。材料である「すくも」は藍を瓶(かめ)に入れて発酵させてつくったものだ。発酵臭というか、「すくも」は独特な匂いがする。
乾燥させ粉末状にした「蒅」(すくも)に、水を入れて攪拌すると藍色の液体になる。天然材料だとブクブクと泡がわいてくる。これを「藍の花」というそうだ。このプロセス全体をさして「藍を建てる」という。
染めることになるTシャツは、端をつまんでクルクルとまわしながら絞ってドーナッツ状にする。そうすることで、染められる部分と染められない部分が発生し、独特の模様がつくられるわけだ。
その形をたもったまま、先端を輪ゴムで止める。てるてる坊主みたいな形だな。
これを藍色の液体につけ、指先でゆっくり回しながら漬けること3分。
この段階では、Tシャツは鮮やかなエメラルドグリーンだが、空気に触れて酸化すると藍色に変色する。化学変化のプロセスが面白い。
濡れたTシャツは雑巾のようにギリギリまで絞り、空気にさらして2分間さらす。
ふたたびTシャツを液体に漬けて3分、絞ってから2分間のさらし。合計5分間でワンクルーとなるわけだが、この回数を増やせば増やすほど、染めの部分が濃くなるという。 自分の場合は、3回繰り返した。
とはいえ、4月でもまだ水が冷たかったので、液体に漬けている時間が早く終わらないかなと思ったくらいだ。冬だと大変だなと思う。
また、絞るプロセスは素材によって違うが、そうとうな腕力を必要とする。何事も実際にやってみないとわからないことが多いと実感。
絞り終わったら、輪ゴムをはずしてTシャツを拡げる。はじめてにしては、いい具合に染まっているではないか!
なるほど、「絞り」ということの意味がよくわかった。どれ一つとしておなじものがないのが絞りの面白さ。
だから、世界でたった1枚しかない、自分だけのオリジナル製品ができあがるわけなのだ。
■ハンドメイドの伝統産業を維持するためには正当な対価が必要
「角(すみ)藍染工房」では、さまざまな「藍染」や、「柿渋染め」など、注文に応じてさまざまな「天然染め」を行っているという。
Tシャツはもっぱら「藍染体験」用だが、注文に応じて反物(たんもの)の藍染めや柿渋染め、ジーンズ上下の染めなどもやっているそうだ。
(反物の染め直し。上は柿渋染め、下は藍染)
染めの料金はグラム単位で設定されているが、藍染めの料金はけっして安くないかもしれない。労働に見合った適正な額の対価をいただくことが、日本の伝統産業を維持し、若い職人たちが生き残るために必要だというのがその理由だ。
なぜそうなのかは、「藍染体験」すればよく理解できるはずだ。ハンドメイドは文字通り「手がかかる」のである。 関心のある人は、「角(すみ)藍染工房」のサイトをご覧いただきたく。
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<関連サイト>
紺屋(こんや、こうや) ➡「紺屋の白袴」
藍について
藍染め蒅(すくも)の加工
<ブログ内関連記事>
・・木綿
・・「藍」も「木綿」も栽培方法が掲載されている
・・豪農の渋沢家は、藍染の材料である藍の栽培と、一時加工品である「藍玉」の生産と販売を行っていた。
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