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2015年5月4日月曜日

書評『あなたのTシャツはどこから来たのか?ー 誰も書かなかったグローバリゼーションの真実』(ピエトラ・リボリ、雨宮 寛/今井章子訳、東洋経済新報社、2007)ー「市場と政治の確執」のグローバル経済をストーリーで描く



『あなたのTシャツはどこから来たのか?-誰も書かなかったグローバリゼーションの真実-』(ピエトラ・リボリ、雨宮 寛/今井章子訳、東洋経済新報社、2006)を読んでみた。

グローバリゼーションという、ひんぱんにクチにされる割にはあいまいな概念を、どうやったら経済を専門とする以外の人たちに説明することができるのか? なにかいい本がないかと探しているのだが、そんなときに知ったのが本書であった。

あまり期待せずに読み始めたのだが、読み始めたらすっかり引き込まれてしまった。グローバリゼーションという経済学の概念を理論的バックグラウンドをしっかり抑えたうえで、ストーリーとして語っているからだ。

一枚6ドルのTシャツという、きわめて日常的でありふれた製品を取り上げて、その原材料であるコットン(=綿)から綿糸、その綿糸を縫製するアパレルとしてのTシャツ、Tシャツへのプリント、そして消費者にわたったのちの古着と、生産者から消費者への流れをサプライチェーンとして追いながら、同時にコットンとアパレルの関係を経済史として記述する。

Tシャツからみたグローバル経済入門である。ケーススタディとしてのコットンとアパレル産業である。そこにみられるのは「市場」と「政治」の確執の歴史である。

Tシャツの生産が、自国より労働コストの安い国や地域で行われることは、経済学でかならず学ぶ「比較生産費説」で説明可能だが、この理論はあくまでも結果としての現状の説明であって、原因を説明してくれるものではない。だから、経済理論もさることながら経済史を知る必要があるのだ。

Tシャツ生産では「世界の工場」となった中国が主要生産国なのに、原材料としてのコットン(=綿花)生産においてはアメリカがいまだに世界的な支配力をもっているのか?

一つには生産性の向上というファクターが存在する。フォスターの曲に歌われているように、かつてはアメリカ南部のプランテーションで黒人奴隷の労働に依存して行われていた綿花栽培だが、農業生産技術高度化と綿花摘み取り作業の機械化の進展というイノベーションによって、生産性が大幅に向上したことがあげられる。いまでも綿花摘み取りを人手に頼っている貧困国とは比べようもない優位性だ。

だがそれだけではない。アメリカは自国のコットン産業保護のために多額の助成金を生産農家に出しており、なんとその総額はアフリカの最貧国のGDPを上回っているという。アメリカの保護貿易政策は、農産物や畜産物その他、かなり広範囲にわたっており、その背後には業界団体による活発なロビー活動が存在する。だからエルヴィスの時代になっても、南部はランド・オブ・コットンであると歌い上げられるのだ。

グローバル経済は、けっして完全競争の世界ではないのだ。完全な競争市場が成り立っているのは、タンザニアの古着ビジネスであるという著者の追跡結果がじつに興味深い。

グローバル経済は、原材料生産から消費者までサプライチェーンでつながっているとはいえ、けっしてグローバル市場という単一の経済が成立しているのではないグローバル経済が実体として存在していても、依然として「国境」は厳然として存在する。

本書ではテーマとして取り上げられていないが、消費市場を細かく見ていけば、消費者の趣味嗜好の国ごとの違いがあることも明らかだろう。グローバル経済は、単一の市場を意味しているのではない

原著のタイトルは、The Travels of a T-Shirt in the Global Economy: An Economist Examines the Markets, Power, and Politics of World Trade、直訳すれば『グローバル経済におけるTシャツの旅-経済学者による世界貿易の市場・権力・政治の分析-』となる。2005年度の「全米出版社協会最優秀学術書」を「金融・経済部門」で受賞し、現在でも大学の経済学の副読本として使用されているという。

近年の日本では、経営学の分野においても「物語」の重要性が強調されるようになっている。その意味では本書のスタイルは、走りというべきか。日本語訳が出版されてからすでに8年、原著出版からすでに10年たっているが、内容的にはまったくもって面白い。

原著は2009年版につづいて、2014年にはアップデート版がでている。参考のために2014年の最新版で増補された「目次」を掲載しておこう。

EPILOGUE: DEVELOPMENTS 2009~2014
 I: American Cotton Is Still King
 II: The Race to the Bottom Speeds Up
 III: The Alphabet Armies March On
 IV: Competition Heats Up in the Used Clothing Business

経済学の知識がない高校生でも読んで理解できる内容だと思う。グローバリゼーションやグローバル経済に関心をもつ一般読者にもおすすめしたい。


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目 次

日本語版に寄せて
序文 わたしを旅へと駆り立てた女子学生の一言
第1部 キング・コットン-200年にわたる米国綿産業の覇権
 第1章 テキサス州ラボック、ラインシュ綿農園
 第2章 米国綿の歴史-勝利の鍵は労働市場の回避
 第3章 ラインシュ農園ふたたび-「怖いのは補助金だけじゃない」
第2部 メイド・イン・チャイナ
 第4章 綿、中国へ上陸
 第5章 底辺へ向かう長い競争
 第6章 女工今昔物語-農場から搾取工場へ、そして…
第3部 もう一つの国境問題-アメリカに帰るわたしのTシャツ
 第7章 怒声の合唱-政治が貿易を支配する理由
 第8章 保護貿易政策の意外な結末
 第9章 40年の暫定的保護の終焉
第4部 本物の市場原理-ついに自由貿易に向かうわたしのTシャツ
 第10章 中古Tシャツの行方-日本、タンザニア、そしてボロ切れ工場
 第11章 零細企業と東アフリカとアメリカンTシャツ
結論
謝辞
訳者あとがき



著者プロフィール

ピエトラ・リボリ(Petra Rivoli)
米東部名門校ジョージタウン大学マクドナウ・ビジネススクール教授。専門は国際ビジネス、国際金融、ビジネスにおける社会的問題など。1983年より同大学の学部生、大学院生、企業エグゼクティブなどを対象に金融および国際経済を教えている。中国を含む国際ビジネスにおけるビジネス倫理や社会公正問題が専門。米フロリダ大学において金融と国際経済の博士号を取得。最新書である『あなたのTシャツはどこから来たのか?』は独特のアプローチでグローバル化に迫った著作としてマスコミや学界など幅広い層からの称賛を集めた。フィナンシャルタイムズ紙とゴールドマン・サックス社が共催した第1回年間優良ビジネス書の最終選考5冊にエントリーされたほか、2005年の最優秀ビジネス書として多くの賞(フィナンシャルタイムズ紙、米コンサルティング会社ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン社、そして米アマゾン・ドット・コム社等)、全米出版社協会より2005年の最優秀学術書(金融・経済部門)に選ばれた 。著書に「International Business」、専門学術誌「Journal of International Business Studies」「Journal of Ethics Quarterly」「Journal of Money, Credit and Banking」などへの掲載論文多数。(「BOOK著者紹介情報」より)。


訳者プロフィール

雨宮寛(あめみや・ひろし)
コーポレートシチズンシップ代表取締役。コロンビア大学ビジネススクール経営学修士およびハーバード大学ケネディ行政大学院行政学修士。クレディ・スイスおよびモルガン・スタンレーにおいて資産運用商品の商品開発を担当。2006年8月CSRのコンサルティングおよび教育研修プログラムを行うコーポレートシチズンシップを創業。CFA協会認定証券アナリスト (本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。

今井章子(いまい・あきこ)
コーポレートシチズンシップ取締役。ハーバード大学ケネディ行政大学院行政学修士。英文出版社にて外交評論誌の編集を担当。ジョンズホプキンス大学ライシャワー東アジア研究所客員研究員、東京大学法学政治学研究科客員研究員を経て、現在国際交流基金勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)。



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Tommorrow is another day (あしたはあしたの風が吹く)
・・南北戦争時代のアメリカ南部を描いた『風と共に去りぬ』のラストシーンのセリフ

(2016年6月19日 情報追加)


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