2025年2月22日土曜日

「卒論」執筆は一生ものの「見えざる財産」だ! ー『歴史学で卒業論文を書くために』(村上紀夫、創元社、2019)を読んで考えたこと

 

わたし自身は、卒論執筆に苦労している現在進行形の大学生ではない。とはいえ、いまを去ること40年前(!)に「歴史学で卒業論文を書い」て卒業した「元学生」であり、すごく気になるタイトルなのでね。 

著者の専門分野は「近世京都の庶民信仰」ということもあって、「日本近世史」を事例にして「卒論の書き方」を懇切丁寧にマニュアル的に記述している。いままさに卒論執筆に苦労している学生には、またとない手引き書となるだろう。 

自分の場合は、お亡くなりになってすでに20年近くなるが、ロングセラー『ハーメルンの笛吹き男』で有名な歴史学の阿部謹也先生の西洋中世史のゼミに所属して、「フランス中世におけるユダヤ人の経済生活」なるタイトルで卒論を書いて卒業している。  

西洋中世史で卒論を書いた立場からみたら、日本人にとって身近な日本史は、なんとなくとっつきやすい分野だ。それだけに、かえって学部レベルであるとはいえ卒論執筆に際して要求される水準が高く、なかなか大変な作業になるのだなあと思った。これは正直な感想だ。 

わたしの場合は、まだ卒論執筆にパソコン使用が認められていない時代であり、大学指定の400字詰め原稿用紙でなんと250枚も書いてしまった。文字数に換算すれば10万字(!)ということになる。長さだけは自慢の種だ(笑) 

こんなに長い卒論を書いたのは、阿部ゼミでは空前絶後だったようだ。「修論」(=修士論文)のような卒論をだした卒業生がいて、レジェンド化している(!?)のだ、と。 そんな話は、惜しくも4年前に亡くなったが、ゼミで同期だった北欧中世史の阪西紀子教授から聞いたことがある。 当時の阿部ゼミの様子については、彼女が懐古的に執筆している。


■卒論執筆は社会人になってから役に立つ!

『歴史学で卒業論文を書くために』の著者はまた、卒論執筆は「社会人になっても、<なってから!>役立つ」と書いている。「40年前に卒論を書いた」自分としては、まったく同感だ。 

ある特定のテーマについて、指導教官の指導を受けながら、自分でテーマ設定し、自分で調べて、自分で書くという経験。これはなにものにも代え難い、まさに「一生ものの財産」だとといって良い。 そうやって苦労しながら書いた卒論だからこそ、ディテールにいたるまで、ことこまかに覚えている。

インターネット時代の現在は、その必要は大幅に減少したが、当時は図書館で「図書カード」を一枚一枚手でめくっては参考文献を検索し、貸し出し申請するという時代であった。 

見つけ出した文献を読み込んだうえで、調査結果を自分なりに咀嚼したうえで自分のことばに「言語化」し、しかも原稿用紙に手で書くのだから、その記憶のひとつひよつがアタマとカラダに刻みつけられているのは、当然といえば当然だろう。

先日お亡くなりになった、世界的経営学者の野中郁次郎氏の主張ではないが、まさに「身体知」化しているのだ。 手書きでなくなった現在でも、おそらく違いはあるまい。音声入力したとしても、最終校正はキーボードで行わなくてはなるまい。


■卒論テーマの設定は?

テーマ設定にかんしては、すでに古典的名著となっている感のある『自分のなかに歴史を読む』(阿部謹也、ちくま文庫、2007)という本がある。  

この本は、1988年に初版が出ているが、その内容については、ゼミやその後の懇親会の場で、先生から直接さまざまなエピソード含めて聞いていた。リアルの場での肉声によるコミュニケーションである。 

『自分のなかに歴史を読む』には、いまではかなり有名になった「わかるとは、変わること」という、歴史家で思想家の上原専禄のことばが紹介されている。上原専禄は。阿部先生の先生にあたる人だ。 

探究すべきテーマは、自分のなかを掘り下げることで出てくるはずだというのが、阿部先生がつねに語っていたことだ。 

外発的動機と内発的動機という区分があるが、かならずしも区分する必要はない。たとえ外発的なキッカケが動機になったとしても、自分のなかにある問題意識と結びつけば、それは自分が探究すべきテーマとなるのである。 

テーマが決まったら、どう探究していくべきかにかんしては、『歴史学で卒業論文を書くために』のようなガイドブックを導きにしたらいい。 

「歴史学で卒業論文を書く」ということの意味について、つらつらと随想風に書いてみた。 歴史学に限らず、「卒論執筆は一生ものの見えざる財産」である! 


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