『ヒトと AI』(岡野原大輔、岩波新書、2026)をじっくり読んでみた。ことし7月の新刊である。
「ヒトと AI が共存する時代にヒトに求められることはなにか」という問いに対する見取り図を示した考察ノートである。
著者の思考プロセスを順にたどっていくことで、おのずから見えてくるものがある。200ページ程度の本だが、飛ばし読みにしないほうがいい。 「詳細目次」をじっくり読んでみるとそれがわかるだろう。
全部で28章あるが、大きくわけて3部構成にになっている。
第Ⅰ部 ヒト以外の知能第Ⅱ部 ヒトの知能 ― AI との対比からみる特徴第Ⅲ部 ポストAIの社会 ― 制度・経済・責任
第Ⅰ部と第Ⅱ部で、ヒトとAIの知能のあり方について考察したあと、ヒトとAIが共存する社会で、責任を引き受ける主体としてのヒトにとって求められることはなにかについて考察が行われる。
著者は、過去の技術変化への社会の対応がそうであったように、ヒトは AI による変化をなんとか受けとめていくだろうと、楽観的な見方を示している。わたしも基本的に同感だ。最近やたら耳にする米国発の一神教的な「終末論」とは異なるスタンスである。
重要なことは、AI にできることの限界を見極めたうえで、ヒトにしかできないこと、これからの時代にヒトに求められることをただしく認識し、ヒトとAIの共存時代に必要なマインドセットとスキルを磨いておくことだ。
結論が先にありきの本ではない。「学習」の意味をただしく理解し、自分がもっている「常識」という「固定観念」をリセットし、つねに自分の認識をアップデートしていくことが必要なことを、ていねいに教えてくれる好著である。 それこそが「学習」の本質なのだ。
著者は、「学習」を「経験や内省をつうじて、自己の内部状態が持続的に変化していく過程」と定義している。これはAIだけでなく、ヒトにとってもおなじである。ことばと概念の再構築も必要となってくる。
ヒトにとっての課題は多い。責任を引き受ける主体としてのヒトにとって大きな課題である。心して生きていかなくてはならないのである。
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著者プロフィール岡野原大輔(おかのはら・だいすけ)1982年生まれ。2010年に東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程を修了(博士)。2006年にプリファード・インフラストラクチャー、2014年に最先端のAI開発で知られる株式会社Preferred Networks(PFN)を共同創業。現在はPFNの代表取締役最高研究責任者(CIO)を務める傍ら、複数の先進企業の代表を兼任。未踏創造事業スーパークリエータ選出など受賞歴あり。
詳細目次はじめに第Ⅰ部 ヒト以外の知能第1章 学習する計算機学習する計算機と、説明できなくなった人間理解する前に答えがある世界へ第2章 学習とは何か模倣する学習から、試行錯誤する学習へなぜ人は「理解していないもの」に従うのかわからないものに判断を委ねるとはどういうことか理解を前提とした判断の限界コラム 学習の三つの基本形第3章 AIは断片的な世界で学習する断片的な学習がもたらす強さ連続性を持たない学習の限界AIは表面的にしかわかっていない世界の厚みを持った人の学習コラム 大規模言語モデルの学習第4章 AIは継続学習が苦手分散表現が生む「記憶の干渉」破滅的忘却AIは忘れながら覚え直している反復によって成立する学習第5章 なぜヒトは少ない経験から学べるのか生存戦略としての「その場学習」多次元的で高密度な学習記憶の固定化と干渉の回避抽象化という圧縮装置第6章 抽象化の力と副作用カテゴリ化因果を見出したいという欲求抽象化や因果推論が生む誤りと迷信抽象化と偏見人とAIの抽象化の違い抽象化は知能の加速装置であり、不安定化要因でもある第7章 究極の抽象化である言語個人を超える学習曖昧さの強さ離散化とコピー可能性無限の表現力AIが言語を扱うということさまざまな情報をつなぐハブとしての言語第8章 AIは理解しているか言語の理解と世界の理解理解を構成する5つの観点AIは5つの理解をすでに高い水準で実現しているコラム 文脈内学習第Ⅱ部 ヒトの知能 ― AIとの対比からみる特徴第9章 個別性と多様性 ― 同じ世界でも、異なる世界にいる評価軸の違いからの個別性多様性は探索のための設計原理であるAIとの対比―評価軸の固定という制約第10章 文化―個人を超えて学ぶ仕組み文化がもたらす集団学習評価軸の外部化文化を持たないAIとの対比第11章 死と有限性 ― 不可逆な有限性が知能を形づくる不可逆性が選択を生む死と集団の学習AIとの構造的な違い第12章 感情 ― 学習を駆動する内的報酬感情の起源 ― 身体状態のモニタリングから社会的評価へ感情は経験に重みを与える内的報酬としての感情感情と個別性AIは感情を持ちうるか第13章 自由と責任 ― 選択を引き受ける主体主体なき選択は自由ではない不可逆性としての自由と責任AIはなぜ自由ではないのか自由と責任の再定義第14章 意識と自己 ―「私」はどこに宿るのか自己モデル ― 行動を「自分のもの」にする短期記憶目標 ― 行動に方向をあたえる軸内省能力と主観経験AIはどこまで主体か社会的責任と責任の所在第Ⅲ部 ポストAIの社会 ― 制度・経済・責任第15章 責任は誰のものか第16章 仕事の再設計 ― AIが業務に溶け込んでいく第17章 ポストAI時代の業務 (1) ― 指揮と統合第18章 ポストAI時代の業務 (2) ― 監査・変更・停止第19章 コミュニケーションの再設計 ― 交渉が並列化し、委譲が制度になる第20章 言語の再発明第21章 教育の更新第22章 研究開発の逆転第23章 神託としてのAIと科学研究第24章 エージェント社会とRTS第25章 引き返せない選択としての創造性第26章 なぜ外国語を学ぶのか第27章 数十億の AI エージェントが経済活動を担うとき ― 主体・契約・市場の再編第28章 AIを社会に組み込むための設計原理おわりに ― AIと共に変わるヒト参考図書あとがき
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