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2013年9月29日日曜日

書評『2045年問題 ー コンピュータが人間を超える日』(松田卓也、廣済堂新書、2013)ー「特異点」を超えるとコンピュータの行く末を人間が予測できなくなる?


この本はじつに面白い。amazon からつよくレコメンドされたので買って読んでみたのだが、期待を裏切ることはまったくなかった。

「2045年問題」とは「特異点問題」とも言うそうだが、乱暴に要約してしまえば、2045年頃にはコンピュータ技術が爆発的に発展し、それから先はコンピュータの行く末を人間が予測できなくなるという仮説のことだ。

日本ではあまり耳にしないが、この仮説はアメリカや、英国を中心にした欧州ではさかんに議論されているそうだ。この仮説はただたんに議論の対象ではなく、人工知能開発に一層の拍車をかける推進力となっている。

冒頭で 「amazon からつよくレコメンドされた」と書いたが、これこそまさに人工知能の産物である。「amazon のレコメンド」もまた、「機械学習」という人工知能のあたらしい潮流のなかにある。「Google の検索」については言うまでもない。

「特異点」(singularity)という発想の根底にあるのは、技術の発展は直線的(=リニア)ではなく、指数関数的(exponential)に発展するという経験則だ。ヒトゲノム解読など、みなコンピュータの演算処理能力の爆発的な増大で想像以上のスピードで達成されてきた。S字カーブの繰り返しによるスピード上昇である。

現在グーグルの技術顧問も務めている、アメリカの発明家でフューチャリスト(=未来研究者)のレイ・カーツワイルがその議論の中心にいる。カーツワイルは人工知能(AI)研究の分野で世界的権威の一人とされている。

本書は、カーツワイルの議論の解説と、宇宙物理学者である著者自身のコメントを一冊にした思索の書といったらいいだろう。

目次を紹介しておこう。

1章 コンピュータが人間を超える日-技術的特異点とは何か
2章 スーパー・コンピュータの実力-処理速度の進化
3章 インターフェイスの最先端-人体と直結する技術
4章 人工知能開発の最前線-意識をもつコンピュータは誕生するか
5章 コンピュータと人類の未来-技術的特異点後の世界
6章 コンピュータが仕事を奪う-大失業時代の予兆
7章 人工知能開発の真意-コンピュータは人類を救えるか

ここのところ、『機械との闘い』など「コンピュータという機械」の進化のスピードがさらに増しており、雇用に多大な影響を与えるという警告本(?)が多くでてくるようになっているが、この「2045年問題」もまた注目しておかねばならないと思う。

2045年には、意識を備えたコンピュータが人類を支配するというSF映画『マトリックス』の世界が、現実になるかもしれないのだ。

2045年はいまから32年後だから、82歳のわたし(!)はかろうじてまだ生きていると思うが、コンピュータの爆発的進歩によって、コンピュータによって補強されたサイボーグ的身体になっているのかもしれない。そうなれば100歳も夢ではないかもしれないな(笑)
  
じっさいのところ、カーツワイルも指摘しているように、現時点ですでにスマートフォンなしの生活など想像しにくい。スマホは体内に埋め込まれたものではないが、人間機能の補助として機能している。ペースメーカーであれば、すでに体内に埋め込まれている。

そう考えると、2045年時点のマン・マシン・インターフェイスにかんする予測もあながち荒唐無稽とは言い切れない気もしないではない。

ただ、この「特異点」(=シンギュラリティ)という発想は、資源の限界を考慮に入れていない。人口は指数関数的に増えるが、資源はそうではないことを指摘したのは英国の人口学者マルサスであった。倫理面での制約も視野にはない、純粋にテクノロジーにかんする議論でもある。

21世紀は近代終焉以降の、つぎの時代に移行する混乱期であり、あたらしいものが発生する前のカオス状態である。そもそもカオスは予測不可能であり100%制御不可能という点も考慮に入っていないという印象は受ける。

著者もまた、「特異点」(=シンギュラリティ)という発想は、英語圏すなわちアングロサクソン世界に特有のものであることは指摘している。欧州でもフランスやドイツなど大陸諸国では流行していないようだ。

だが、「30年前」ですら現在からみればすでに隔世の感もあるから、いまから「30年後」は想像もできない世界になっている可能性は大きい。

意外と人間というものは、最先端のテクノロジーをつかいこなしたうえでそれに慣れてしまい、それなしでは生きていけなくなってしまうものだ。つまりこの点にかんしてはめったなことがない限り、後戻りはほとんどない。

まだまだ先のことと思わず、ぜひ読んでみることを「機械ではない生身の人間」であるわたくしがみなさまにレコメンドいたします。指数関数とは対数のことですが、本書には数式はほとんどでてこないので、安心して読めるでしょう。





著者プロフィール

松田卓也(まつだ・たくや)
1943年生まれ。宇宙物理学者・理学博士。神戸大学名誉教授、NPO法人あいんしゅたいん副理事長、中之島科学研究所研究員。1970年、京都大学大学院理学研究科物理第二専攻博士課程修了。京都大学工学部航空工学科助教授、英国ウェールズ大学ユニバーシティ・カレッジ・カーディフ応用数学天文学教室客員教授、神戸大学理学部地球惑星科学科教授、国立天文台客員教授、日本天文学会理事長などを歴任。コンピュータ創世記である1960年代から、大型コンピュータを駆使した数値シュミレーションを行い、 京都大学や神戸大学でコンピュータ関連施設の運営委員を歴任するなど、コンピュータの最先端事情に詳しい。 主な著書に『これからの宇宙論-宇宙・ブラックホール・知性-』(講談社ブルーバックス)、 『正負のユートピア-人類の未来に関する一考察-』(岩波書店)、 『新装版 相対論的宇宙論-ブラックホール・宇宙・超宇宙-』(共著、講談社ブルーバックス)、 『時間の本質をさぐる-宇宙論的展開-』(共著、講談社現代新書)、 『タイムトラベル超科学読本』(監修、PHP研究所)など(各種データより作成)。


<関連サイト>

レイ・カーツワイル(Ray Kurtzweil) (wikipedia英語版)

世界的権威レイ・カーツワイルが、グーグルで目指す「究極のAI」(Wired 日本語版 2013年5月2日)・・「昨年、AI(人工知能)研究の分野で世界的権威の一人とされるレイ・カーツワイルがグーグルに加わった。彼のグーグルでの研究やヴィジョンはいかなるものなのか。WIREDによるカーツワイル氏へのインタヴューから、いくつかのQ&Aを抜粋して紹介する」

レイ・カーツワイル:今後現れるシンギュラリティ(技術的特異点)を学ぶ大学(TEDプレゼン 2009年2月収録 日本語字幕つき)

レイ・カーツワイル 「加速するテクノロジーの力」(TEDプレゼン 2005年2月収録 日本語字幕つき)

収穫加速の法則(wikipedia日本語版)

技術的特異点(=シンギュラリティ) (wikipedia日本語版)

かなり高額なのにエリート管理職が続々参加!超未来志向の大学「シンギュラリティー・ユニバーシティー」とは (ダイヤモンドオンライン 2012年12月13日)

機械学習革命 的中したビル・ゲイツの予言 (日経コンピュータ、2014年8月4日~8日)
・・「自ら学習するマシンを生み出すことには、マイクロソフト10社分の価値がある」。 米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏は今から10年前の2004年2月にこう語った。 その時は来た。 米グーグルや米アップル、米フェイスブックといった先進IT企業は今、コンピュータがデータの中から知識やルールを自動的に獲得する「機械学習」の技術を駆使し、様々なイノベーションを生み出し始めている。 これらは来たる機械学習革命の、ほんの序章に過ぎない。 機械学習の本質は、知性を実現する「アルゴリズム」を人間の行動パターンから自動生成することにある」

Keen On-『第二の機械時代(The Second Machine Age)』の著者にデジタル経済が進展する中での人間の役割を聞く (TechCrunch、2014年2月14日)

Artificial intelligence meets the C-suite Interview|  (McKinsey Quarterly, September 2014)
・・「Technology is getting smarter, faster. Are you? Experts including the authors of The Second Machine Age, Erik Brynjolfsson and Andrew McAfee, examine the impact that “thinking” machines may have on top-management roles.」  『第二の機械時代』の共著者ブリニョルフソンとマカフィーをまじえた座談会。エグゼクティブははたして生き残れるか?という議論で、ある起業家は、「機械にできることは機械にまかせるという発想はアウトソーシングの発想と同じだ」と喝破している。 

「Google DeepMind」が驚異的な速さで学習! 人工知能への危機感も高まる (宮本和明のシリコンバレー最先端技術報告)(ITPro、2015年1月27日)
・・「TeslaやSpaceX創設者Elon MuskはWebサイトで、人工知能は深刻なリスクを内包し、5年以内に問題が起こると述べている。・・(中略)・・根拠の一つがDeepMindと言われている。DeepMindが驚異的な速度でゲームを学ぶことを見て、危機感を抱いたとされる。 さらに、インターネットには膨大な“教材”がそろっており、人工知能が学習できる環境がある。Muskはこれを悪用することに対する懸念も表明している。悪意のあるものがここに逃げ込み、学習を重ねることを阻止する必要があると述べている」

AIの「人間超え」、その時トップ囲碁棋士は  緊急寄稿:高尾紳路九段が見たシンギュラリティの風景 (日経ビジネスオンライン、2016年3月19日)
・・「今回の五番勝負は、非常に公平なルールで打たれたと思う。何を持って「人間を超えた」とするかは人それぞれだろうが、私は素直に人工知能が人間を超えたと言ってよいと思う。・・(中略)・・グーグルはアルファ碁の開発で培ったディープラーニングなどの人工知能技術を、医療や気候モデリングにも役立てていく方針だと聞く。囲碁が社会の深刻な課題の解決に貢献できるのなら、これほど誇らしいことはない。

(2014年9月11日、2015年1月27日、2016年3月19日 情報追加)


<ブログ内関連記事>

月刊誌 「クーリエ・ジャポン COURRiER Japon」 (講談社)2013年11月号の 「特集 そして、「理系」が世界を支配する。」は必読!-数学を中心とした「文理融合」の時代なのだ
・・カーツワイルの「特異点」(=シンギュラリティ)についても取り上げられている

書評 『コンピュータが仕事を奪う』(新井紀子、日本経済新聞出版社、2010)-現代社会になぜ数学が不可欠かを説明してくれる本

書評 『グーグル秘録-完全なる破壊-』(ケン・オーレッタ、土方奈美訳、文藝春秋、2010)-単なる一企業の存在を超えて社会変革に向けて突き進むグーグルとはいったい何か?

書評 『100年予測-世界最強のインテリジェンス企業が示す未来覇権地図-』(ジョージ・フリードマン、櫻井祐子訳、早川書房、2009)-地政学で考える

書評 『21世紀の歴史-未来の人類から見た世界-』(ジャック・アタリ、林昌宏訳、作品社、2008)-12世紀からはじまった資本主義の歴史は終わるのか? 歴史を踏まえ未来から洞察する

PS この投稿で奇しくも1212本目とぞろ目になった。まだまだ書きますよ!


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