2017年5月13日土曜日

書評『キャスターという仕事』(国谷裕子、岩波新書、2017)-「日本語の文脈のなかで日本語で伝えることの難しさ」を意識しつづけた23年の軌跡


 『キャスターという仕事』(国谷裕子、岩波新書、2017)を読んだ。「NHKクローズアップ現代」の23年間をキャスターをつとめた国谷さん自身による振り返り。

いろんな読み方が可能だと思うが、番組そのものの誕生の経緯から2016年の最終回までの23年間は、日本社会の転換期であったこと、日本語よりも英語のほうが得意な「帰国子女」にとっての日本でのキャリア形成の物語、映像重視のテレビ番組でのコミュニケーションの意味、日本語の文脈のなかで日本語で伝えることの難しさ、などが印象に残る。

「NHKクローズアップ現代」という番組は、国谷裕子さんという一本筋の通った個性的な「キャスター」(・・これは和製英語。英語ではアンカー)あってこその番組であったが、チームによる番組製作の舞台裏を知ることができたのはおおきな収穫だった。組織に属さないフリーの立場からみた組織の問題など微妙な問題もきちんと取り上げている。

岩波新書らしく硬派な内容で、読み応えのある本だった。それにしても、「NHKクローズアップ現代」が終わってしまったのは、かえずがえずも残念だ。

アメリカに住んでいたときからNHKの国際放送で英語のニュースを読む国谷裕子さんのことは知っていた。「NHKクローズアップ現代」がはじまる前のことだった。そのときからのファンだったので、「NHKクローズアップ現代」から降板になったのは残念で仕方がないのだ。

だが、いまこうして、23年間の軌跡を振り返った本書としてまとめられたことは、降板になったからこそ実現したともいえなくはない。「禍を転じて福となす」。その意味では、大いに意義あることだというべきだろう。国谷さん、執筆いただいて、ありがとうございました。






読者のみなさんへ 国谷裕子 (岩波書店の書籍案内サイトより)

番組を離れて10か月が経ち,〈クローズアップ現代〉に自分なりの区切りをつけたいと思いました.私には,次に向かって進むために,番組とともに過ごしてきた時間を整理することが必要だったのです.番組との出会いと別れ.キャスターの仕事とは何かと悩んだ日々.記憶に残るインタビューの数々.そしてテレビの報道番組が抱える難しさと危うさ.偶然のようにしてキャスターになり,大きな挫折も経験し,そのことへのリベンジとしてキャスターをやめられなくなった私.番組を制作する人々の熱い思いに突き動かされながら,様々な問いを出し続けてきました.この本は,言葉の力を信じて,キャスターという仕事とは何かを模索してきた旅の記録です.



目 次    

第1章 ハルバースタムの警告
第2章 自分へのリベンジ
第3章 クローズアップ現代
第4章 キャスターの役割
第5章 試写という戦場
第6章 前説とゲストトーク
第7章 インタビューの仕事
第8章 問い続けること
第9章 失った信頼
第10章 変わりゆく時代のなかで
終章 クローズアップ現代の23年を終えて
あとがき

著者プロフィール

国谷裕子(くにや・ひろこ)
大阪府生まれ。1979年、米国ブラウン大学卒業。1981年、NHK総合“7時のニュース”英語放送の翻訳・アナウンスを担当。1987年からキャスターとしてNHK・BS“ワールドニュース”、“世界を読む”などの番組を担当。1993年から2016年までNHK総合“クローズアップ現代”のキャスターを務める。1998年放送ウーマン賞’97、2002年菊池寛賞(国谷裕子と「クローズアップ現代」制作スタッフ)、2011年日本記者クラブ賞、2016年ギャラクシー賞特別賞を受賞。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたもの)


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・・海外経験の長い、とくに欧米経験の長い女性たちの意見に耳を傾ける


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