先日惜しくもお亡くなりになったエッセイストでドイツ文学者の池内紀さん。その知られざる1冊がこれ。『カント先生の散歩』(潮文庫、2016)。
「知られざる」と書いたのは、潮(うしお)文庫なんて、存在そのものすら忘れていたマイナーな文庫だから。潮文庫を置いている書店も、あまりないしね。
じつは私もつい最近知ったばかりなのだ。潮出版社のインド関連の本を読む機会があって、試みに amazon で潮出版からどんな本が出てるのかなと検索していたら、この本が出てきた。おお、こんな本があったのか! というわけでさっそく注文。届いたらすぐに読んでみた。
さすがに「散歩中」というわけにはいかないが、「電車での移動中」の読書には最適だ。薄くて軽く読める本だが、内容は面白い。
カントの哲学書は、正直いって私も途中で読むのを断念している(苦笑)。ところがカントには『人間学』なんて面白い本がある。大学の講義を元にしたらしい。このほか『永遠平和のために』は、21世紀のいまでも読むべき本であって、短いし比較的読みやすい内容だ。
池内さんは、その『永遠平和のために』の翻訳もしていたらしいと、この文庫本で初めて知った。その翻訳のための調べ物がから生まれたのが、この本のもとになった連載。その連載が、月刊誌『潮』だから、潮出版社から初版がでて、さらにその3年後に文庫化されたというわけ。
池内さんの『ゲーテさん、こんばんは』(集英社文庫)も面白いが、おなじく18世紀に生きたドイツ人を描いた、この『カント先生の散歩』もいい。味のある作品だ。
哲学者カントのじつに人間臭い側面、哲学書が生まれた背景にディスカッション・パートナーとして一卵性双生児のような英国人商人が存在したことの意味など、なるほどというエピソードに充ち満ちている。カント哲学は、けっして孤独な思索から生まれたわけではなく、対話から生まれたのである。
世の中全般に通じていた雑学的知識の持ち主で、会食の席で座を盛り上げる名手だったことなど、読んでいて楽しくなってくる。
そして人間である以上、誰もが避けられない老いについて。頭脳明晰な哲学者カントも、寄る年波には勝てず、介護されながら老衰していく。カントの老いを詳しく描いているのは、著者自身が老境に入っていたためだろう。
長々と書いてしまったが、カントについて関心のある人、そうではなくても池内紀ファンなら読む価値あり。この本を読めば、哲学者カントについて知ったかぶりができるようになりますよ(笑)
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