2020年6月15日月曜日

書評『"闘争と平和" の混沌 カイロ大学』(浅川芳裕、ベスト新書、2017)-日本的常識の通じない世界がそこにある!


東京都知事の小池百合子氏が2020年6月12日に「再選」に向けて出馬表明したが、学歴詐称問題が大きな話題となっている。

「カイロ大学が卒業を認めている」と小池氏は言うが、エビデンスが呈示されない以上、信じろと言われてもねえ・・。

まあ、卒業したかどうか、真相は藪の中だが、その渦中にいる小池氏が「首席で卒業した」(!?)と言うカイロ大学とはどんな大学なのか知ることのできる本がある。 

それが、『"闘争と平和" の混沌(カオス) カイロ大学』(浅川芳裕、ベスト新書、2017)という本がそれだ。 

積ん読のままになったこの本を読むことにしたのは、まさにいま話題となっているカイロ大学に1993年から1995年まで実際に在籍していたジャーナリストによる本だからだ。 

長州(山口県)出身で1974年生まれの熱血漢が、高校卒業後にいきなり飛び込んだエジプトの首都カイロは、まさに混沌そのもの法律よりもコネと交渉力と演技力がモノを言う世界

そして、国立大学のカイロ大学は学生数25万人(!)のマンモス大学。アラブ世界の最高峰でありながら、日本人の常識をはるかに越えた世界であることがわかる。 

そんなカイロ大学だが、熱血漢の著者は行動に目をつけられて軍事政権下で投獄も体験、退学を余儀なくされており、卒業はしていないことが記されている。とはいえ、そもそもカイロ大学に留学した日本人が少ないのである。その意味でも貴重な体験談である。 

小池氏にかんしても、卒業したのか卒業してないのか真相は不明だが、コネと交渉力を行使してカイロ大学に入学したことも、在学していたことも事実であるから、エジプト流のサバイバル術を身につけていることは明らかだ。

というこおてゃ、小池氏は一筋縄ではいかないクセ者だということを意味している。 

面白おかしく笑える導入から始まって、20世紀のカイロ大学の建学から現在に至るエジプト現代史を、カイロ大学が生み出してきた傑物たちの人生を紹介しながら、たどってみせる内容になっている。

著名な卒業生(中退を含む)のなかにはイラクの独裁者だたサダム・フセイン、PLO議長だったアラファト、アルカイダ指導者のザワヒリなど、じつに多彩な顔ぶれだ。 

「目次」は以下のとおり。 

はじめに 
序章 世界一刺激的な都市-カイロ 
第1章 カイロ流交渉術の極意 
第2章 世界最強の大学-カイロ大学 
第3章 カイロ大学-混乱と闘争の源流 
第4章 カイロ大学建学思想の申し子たち-ターハ、バンナ、ナセル、クトゥブ 
第5章 カイロ大学-政治闘争と思想輸出の前線基地 
第6章 カイロ大学留学のススメ 
第7章 カイロ大学留学体験記 
おわりに 

まあ、ざっとこんな感じだが、第4章と第5章は硬派な内容でエジプトとイスラーム世界に関心があればさておき、飛ばしても問題はない。その他の章を読むだけでも大いに得るところはあるはずだ。 

日本的常識の通じない世界がある、ということを知るだけでも意味があるのだ。そしてそんな世界を若いときに体験した人物であるということをアタマのなかに入れて、小池氏の言動を注視すべきであろう。 


PS わたしは東京都民ではないので、直接は関係ありませんが、首都圏の居住者である以上、小池氏の影響は間接的に受けるわけであり、しかも最終的には小池氏は首相を狙っているという憶測もあるので、注視する必要ありと考えます。







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