2021年1月10日日曜日

「闘牛といえばスペイン」は、すでに過ぎ去った過去の話なのかもしれない・・

 
闘牛といえばスペインという連想がある。スペインといえば闘牛とフラメンコ。日本人に限らず、世界中でそうなのではないだろうか。 

サービス業のバイブルともいうべき『真実の瞬間』(1990年)英語原書のタイトルは The Moment of Truth だが、これはもともとスペイン語の Momento de la Verdad(モメント・デ・ラ・ベルダー)からきている。意味するところは、闘牛士が牡牛にとどめを刺す「決定的瞬間」のことだ。 

 日本人である自分には、闘牛といえばスペイン、そんな「常識」があったので、ずいぶん以前の1990年代のこと、1度だけだが本場スペインのマドリードにいった際、ナマの闘牛を見に行ったことがある。

闘牛場はコロセウムのような形なので、かぶりつきでないとウシも闘牛士も小さく見える。 だが、このとき一回限りでイヤになってしまった。というのは、闘牛士が牡牛を倒したあと、流された血の匂いが観覧席まで漂ってきたからだ。生臭い血の匂いに、リアルな闘牛を知ることになったというわけだ。 

どうやら、こういう感覚をもったのは日本人の自分だけではなかったようだ。本家本元のスペインでさえ、1990年代後半以降、動物愛護の観点から闘牛反対の世論が大きくなっていったらしい。殺すことはなかろう、と。しかも、スペインではサッカー人気が、「国技」である闘牛人気を上回っているのだ、とか。 

そんな風潮がでてくる臨界点ともいうべきときに出版されたのが、作家・佐伯泰英氏の『闘牛はなぜ殺されるのか』(新潮選書、1998)という本だ。佐伯氏の「スペイン闘牛もの3部作」の最後となった作品である。  

出版順にいうと、『闘牛』(平凡社カラー新書、1976)『闘牛士エル・コルドベス 1969年の叛乱』(徳間文庫、1987 単行本 1981年)の集大成ともいうべき位置づけになる。 

もともと写真家としてスペイン、しかも闘牛をテーマに絞って取材活動を続けていた佐伯氏の写真と文章には、スペインと闘牛への愛が強く感じられる。古き良きスペインといったものがある。 

だが、スペインの闘牛人気が下がり始めたのと軌を一にしたように、作家人生にも一大転機が訪れたようだ。スペインものが売れず、ちょうど『闘牛』がでた1998年に作家廃業寸前まで追い込まれたらしい。なんと57歳のときだ。 

その後、時代小説に転じて「文庫書き下ろし時代小説」という新たなジャンルを確立して転進に成功している。現在も月に1冊出すというハイペースの量産体制で、ファン層をがっちりつかんだ佐伯氏だが、その原点にスペインものがあったことは、知る人ぞ知る事実である。 時代小説のほうのファンではない私にとって、作家・佐伯泰英氏の原点であるスペインもののほうが好みに合う。 

それにしても、佐伯氏の闘牛三部作は、ある意味で消えゆく伝統芸への「挽歌」となったのかもしれない。 

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