2021年3月15日月曜日

書評『同調圧力』(鴻上尚史/佐藤直樹、講談社現代新書、2020)-「自粛警察」をもたらす「同調圧力」の根源は、日本に濃厚に存在する「世間」にあるが・・


『同調圧力』(鴻上尚史/佐藤直樹、講談社現代新書、2020)を読む。どうやらベストセラーになっているようだ。  

昨年2020年の8月に出版されたものである。新型コロナウイルス感染症が爆発し、非常事態宣言(第1次)が発令され、その解除後のものだ。

当時は、欧州のように「ロックダウン」を実行しなくても、日本は要請だけで自粛するので感染が拡大しないのだなどと言われていた(現在もそうかな?)、その理由は「民度が高い」(?)からなどという政治家もいたが、はたしてどうだろうか。なにごとも正負両面があるというものだ。

いわゆる「自粛警察」など、まさに負の側面というべきだろう。 江戸時代の「五人組」や戦時中の「隣組」ではないが、現在もなお日本では「相互監視」の目が厳しい言われなくても「自粛」を行う傾向がある。他人の目を意識するからだ。

なぜ日本は息苦しく、うっとおしいのか、その理由は「世間」の存在にあるというのが、対談を行った両者の共通認識である。 

「世間」というものは、日本語で生きている日本人の言動を縛っている、目に見えない人間関係の束のことである。目に見えないだけにやっかいな存在だ。世界中どこでも、多かれ少なかれ「世間」的なものは存在するが、日本ほどそれが濃厚に存在する場所はほかにない。 

日本語をつかう日本人である以上、そこから抜け出すことができないのが「世間」だが、うまく対処して生きることは不可能ではない

この対談の最後のほうで語られている、複数の「世間」にかかわること、「世間」の内部でしか通用しない語りではなく、「社会」に向けての語りを意識をすることなどである。 

劇作家で演出家の鴻上尚史氏は、『「空気」と「世間」』(講談社現代新書、2009)という好著を書いている。この本は超おすすめだ。

刑法学者の佐藤直樹氏は、阿部謹也「世間論」の継承者で祖述者。 正直なところ、鴻上氏の発言のほうが、実践家で現場体験が豊富なだけに説得力が強い。
 




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この本を読んだあと、何の関係もないが、つづけて『ロシアを決して信じるな』(中村逸郎、新潮新書、2021)という本を読んだ。  


著者の中村氏は、TV番組にもよく出演している、ややエキセントリックな雰囲気を醸し出している筑波大学大学院教授のロシア研究者。 

『ロシアを決して信じるな』で語られるロシアは、「不条理」としかいいようのない、めちゃくちゃな世界。 

そんな世界で生きているのがロシア人だが、それでも大多数のロシア人はロシアを愛しており、ロシアから出ようとはしない。不思議といえば不思議だが、まあ、そういうもんだろう。


 「世間」の縛りのなかで息苦しい思いをしている日本人も、なんじゃかんじゃいいかながら日本から出ようとしない。 

ある意味、似たようなもんかという気もしなくもないし、日本人である私は、そんな日本であっても、まだロシアよりマシではないか、と思ってみたりもする。 

繰り返しになるが、まあ世の中というものは、そんなものであろう。愛しているから愚痴をこぼす、文句をいうということもあるわけだ。
 




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