ここのところ、約10年ぶりに18世紀スウェーデンが生んだ知の巨人スウェーデンボルグについての本をちまちま読んでいる。
日本でも禅仏教の世界的権威の鈴木大拙、無教会派キリスト者の内村鑑三、初代文部大臣を務めた森有礼など、そうそうたる人物たちがスウェーデンボルグの影響圏のなかにある。
霊性(=スピリチュアリティ)に考える際には避けて通ることができないのがスウェーデンボルグの思想だ。とくに英語圏を中心に、大きな影響を与え続けてきたからだ。さきにあげた3人は、いずれも留学ないし仕事で米国に長期滞在した人たちである。
「自己啓発」や「ポジティブシンキング」などをつうじて、現在にいたるまでスウェーデンボルグの思想は、深層潮流として流れ続けているにもかかわらず、日本では敬して遠ざけられているきらいがあるのは残念なことだ。
ところで、盲目の国学者で「群書類従」(全666巻)という日本の古典を収拾し活字化する一大プロジェクトを立ち上げ、41年かけてコンプリートさせた塙保己一(はなわ・ほきいち)についてコラムを書いた際に、ヘレン・ケラーについてもあらためて振り返ったことがある。
その際に入手していながら、いままで読んでいなかった『ヘレン・ケラー 私の宗教ーヘレン・ケラー、スウェーデンボルグを語る<決定版>』(高橋和夫/鳥田恵訳、未来社、2013)を本日ようやく読んでみた。
ヘレン・ケラーもまた、スウェーデンボルグ思想の強い影響圏のなかにかにいた人なのだ。
2歳のときの発熱が原因で視覚と聴覚を失い、聴覚を失ったためにコトバも知らず、発話もできなかったヘレン・ケラーが、サリヴァン先生の献身的な努力のおかげで W-A-T-E-R というコトバを知り、実体としての水と結びついて認識できたときの感激はよく知られている。
だが、その後ヘレン・ケラーが、いかにして抽象概念を理解し、自分の考えをアウトプットできるようになったか、そして生きる力を生み出し、彼女を内面から支えた思想はいかなるものだったかについては、あまり知られていない。
『ヘレン・ケラー 私の宗教』を読むことで、それが手に取るように理解できるのだ。
感覚世界のうち視覚と聴覚を閉ざされていたヘレン・ケラーだからこそ、スウェーデンボルガが霊界という「超感覚世界」について語ることが理解できるということに大きな説得力があるのだ
原本は1927年の初版で、ヘレン・ケラーが47歳のときのものである。 スウェーデンボルグの著作を点字訳で読み、その内容に共鳴して、大いに感化され、その思想を自分を支えるものとして血肉化していったことがわかるだけでなく、ヘレン・ケラーをつうじてスウェーデンボルグの思想も理解できるのである。
スウェーデンボルグは、18世紀前半当時では一頭地を抜く科学者で工学者であり、その冷静な観察眼をもって霊界について記述した人である。
ヘレン・ケラーは、フランシス・ベーコンの帰納法でもって霊界を観察し記述したと書いている。 ああ、そういう系譜でものを考えることもできるのだな、と。たしかに、ベーコンもまた中世と近世の狭間を生きた人で、大いに評価されたのは18世紀になってからであった。
スウェーデンボルグの思想についてはここでは省略するが、カルヴィニズムの予定説を否定し、現世においては、人のために役にたつことをし、「いま、ここ」で高みを目指して努力することの意義を説いている。
これが「自己啓発」や「ポジティブシンキング」につながっていくわけだが、スウェーデンボルグ思想を完全に自分のものとし、障害を試練とみなす心構えを身につけたヘレンに、心の底から「生きていてよかった!」と言わしめているのである。読んでいて感動すら覚えるのだ。
スウェーデンボルグは基本的にキリスト教だが、キリスト教の枠組みを超えて、仏教やその他のスピリチュアルな活動に影響を与えたのは、ある意味では当然だなとあらためて思わされた。
『ヘレン・ケラー 私の宗教』は、ヘレン・ケラー自身について深く知るためにも、ヘレン・ケラーをつうじてスウェーデンボルグ思想を知るためにもぜひ読んでおきたい好著である。
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